第十七幕『真相』

 無事に目覚めたラースの第一声が「口の中が不味い!」で、次に出て来たのが「メーヴォから美味そうな飯の匂いがする」だったので、一発平手で頭を叩いておいた。僕がどれだけ心配したか知らずに、暢気なもんだ!


 ラースの空腹を訴える声に皆が賛同し、翠鳥の面々と共に北の浜に集まって酒盛りをした。即席で拵えた野営調理場では、バラキア船長自らが腕を振るって料理が振舞われた。両船からはとっておきの酒まで出されて来て、宴は夜遅くまで続いた。


 翌日、二日酔いの船員を休ませ、手の空いた船員たちに飲み食いした分の食料補充を任せ、バラキア船長、僕とラースの三人で、隠者ギルベルトの住居と、その亡骸を発見した。


「やはり既に死んでいたか」


 カラカラに乾き切ったミイラは、寝床で手を組み行儀よく横たわっていた。


 小さな住居には草木が生い茂り、廃墟と化したそこで数冊の手記と、一振りの剣を見つけた。手記には自分の研究の後ろ盾をしていたはずの国の裏切り、自分を流刑に処した王国や海軍についての恨み節ばかりが記されており、また蝕の民に関する自身の研究結果を燃やされたとの記述を見つけて、僕は落胆に肩を落とした。

 問題は、そこにあった剣だ。


「……これがオーストカプリコーノ」


 バラキア船長が蝕の民の言葉で武器の名前を呟き、手に取る。が、渋い顔をしてさっと床に刺し手を引いた。


「……何て言う恨みの念だ。これは持つ者を狂わす魔剣だぞ」


 ギリっと歯を鳴らせたところを見ると、隠者の調査と言う名目と共に、この剣が今回の彼の報酬だったに違いない。ところが彼が持ち、制御するにはそこに留まる念は黒く重すぎた。


「バラキア船長。今この剣の事を『オーストカプリコーノ』と、『山羊座の骨』と言いましたね」

「……そうだ。これが海洋学者ギルベルトが蝕の民の末裔から受け取ったとされる、蝕の十二星座の武器のひとつだ」


 蝕の十二星座の武器。蝕の民が残したとされる強力な武器の事で、死弾のエトワール副船長が手にする『フールモサジターリオ(射手座の稲妻)』と同シリーズの武器だ。やはり世界中に散らばっているんだな。


「つまり、事の真相はこうか」


 昨日見た藪の塊は、この武器の強い魔力と隠者の妄念が生み出した悪霊。自分が信じて疑わなかった国に裏切られて心折れ、弱った心は魔剣の囁きに乗って凶行を繰り返し、投獄されこんな所で朽ち果てる無念さが、凝り固まって悪霊を生んだ。それは島の中を彷徨い、運命的とも言える邂逅を果たした。と、陳腐にも程がある話だ。


「……バラキア船長。そう言えば忘れていました。今回の僕からの報酬です」

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