第二幕『接触』

 そんな風に海賊旗を一新した矢先、一つ依頼を受けないか?と、停泊した先の港でたまたま出会った海神に持ちかけられた。まさかあの大旦那から依頼と来た。海神ことニコラスは、ウチの砲撃手長メーヴォの使い魔と旧知の仲なので多少の面識はあるが、ホイホイとそんなウマい話を持って来てくれるほどの仲ではない。隻眼の奥に底知れぬ闇のような、虚ろのような物を覗かせるニコラスの真意が知れない。


「アンタが何を目論んでるのか、何とも尻の落ち着かない話だな」

「簡単な話だ。ある試薬の実験台になって欲しい。報酬は宝のありかだ」


 それは片方に天秤が偏り過ぎていないか?港で立ち話もなんだと移動した酒場でエールを傾けながら、ニコラスは二つの小瓶をテーブルに置いた。

 その場にいた俺、メーヴォ、船医マルトがそれを手に取る。無色透明の液体が入った小瓶。ご丁寧に付けられたタグには『DrinkMe(わたしをのんで)』と記されている。開けても良いかと確認を取ってマルトが匂いを確認するが無臭。まるっきり水にしか見えない代物だ。


「知り合いが薬の調合にのめり込んでいてな。試薬の実験台をと頼まれた。他にも二本ばかりウチの船員に試させたが、この二本はウチでは手に負えそうに無いのでな」

「大旦那のところで手に負えない代物が、ウチでどうにかなるとは思えませんがねぇ」

「一番宛にしていた金獅子が捕まらん。次の候補はお前たちだ」


 何かある絶対に面倒な事が待ってる。が、お宝の情報も気になる。先日ある経緯で手に入れた武器を一悶着の末修復し、譲渡された本人である副船長がそれを使用する事に決まった、フールモサジターリオ。『射手座の稲妻』と名前の付いた超遠距離射撃銃。金環蝕の瞳を持つ古代人が作成した幻の武器。その性能は折り紙付きだった訳で、何が言いたいかと言うと、俺ももっと強い魔銃が欲しいと言う事だ!


「……聞く限りだと試飲をするリスクの方が高い。大旦那、アンタが持っている宝の情報って何だ?それが分からねぇ事には交渉の天秤は不利に傾いたままだぜ」

「なるほど。それもそうだな。俺が掴んだ情報は、蝕の民の遺物についてだ。金獅子の副船長も最近は何かと蝕の民の技術について探っているらしい。金獅子もだが、お前たちにも有益な情報だろう?」


 そこで逸早く反応をしたのは横に座っていたメーヴォだった。金環蝕の瞳を持つ民の末裔であるメーヴォに、そのお宝は何よりも興味引く話だ。


「今、蝕の民の遺物を見つけたところで、その言葉を理解する末裔は極僅か。更に相応の技術を持った者がいなければ修復も出来ずただのガラクタに過ぎない」

「……アンタのところにどんだけの情報が行ってるのか、薄ら寒くなるわ」

「金獅子のところにあった技術書は、無事にあるべき場所に戻ったのだろう?もう俺の言わんとしている事は分かったな?」


 蝕の民の宝の情報、それは俺たちが手にする事で真価を発揮する情報であり、俺たちが欲している宝で間違いない。

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