第五幕『言伝』

 買い物の後のアレコレを済ませ、コテージに戻った時には午後の日も傾き始めていた。


「遅い!」


 部屋の扉を開けた途端にメーヴォに怒鳴られた。夢見心地のエトワールを置いて、俺だけで荷物を届けに来たらこの待遇だよ。俺が船長だよ?ヒドくない?ろくに顔も合わせずに荷物を受け取ったメーヴォはすぐさま机に向かって器具をイジりだした。


 コイツは大変、熱心なこった。他のクラーガ隊の手先が器用な奴らは大体同じように薬品を計っていたり、何かを調合したり組み立てたりしている。体の大きい奴らは大体掃除してるからこいつらの連携振りには舌を巻く。

 さぁて、エトワールに押しつけられたコレとアレを交渉するか……。


「メーヴォ、ちょっと話がある。手が空くか?」

「……」

「……手が空いたら来てくれ。コッチで待ってる。早めに返事が欲しい案件だ」

「……分かった」


 部屋の入り口で返事を確認し、大きなリビングの大きなソファに転がる。手元にあるその腕輪を半ば持て余すように光に翳した。月日が金の装飾をくすませているが、上等さは一目見て分かる。


 つい先ほど、金獅子の船をエトワールと共に訪れ、船長ディオニージ同席の下、アデライド副船長とクリストフ提督の品評会潜入作戦を立ててきた。その別れ際に、アデライドがエトワールにそっと渡していた品がコレだ。


「例の、蝕の民の遺物です。あの技術書がなければ活用が難しい品ですから、お持ちになって是非彼に見せてください。今日助けて頂いたお礼です」


 そう言われた時のエトワールの顔を見たか。アレ絶対勃ってた。もう手が洗えないとか言ってて身内ながらどん引きする。メーヴォに見せるために預かって来たが、ずいぶん渋られた。


「遺物ったって、こんな古ぼけた腕輪だけどなぁ」


 呟いた声に答えるように扉が開く音がした。


「ラース、話ってなんだ?」


 出て来たメーヴォの顔を改めて見てぎょっとした。さっきは気が付かなかったが、髪はボサボサだし普段はきちんと剃ってある筈の無精髭まで生えてる。隈がヒドいし、眼なんかかなり充血してて、元々の蝕の瞳と相まって魔物みたいだ。


「お前大丈夫か?」

「何がだ?」

「すげぇ顔してる。お前あんだけ俺らに体調管理させておいて、しっかり寝てないだろ」

「技術書の内容が面白すぎてな。熱中していたらこの有様だ」

「寝る間も惜しんでやってんの?次の作戦が変わったから、お前には体調整えてもらわないと困るんだけど?」

「作戦が変わった?クリストフ提督の品評会には、僕は参加しない話だったろ?」

「話が変わったんだ」

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