第五幕『懸念』

「そうですね、実はまだ全然起きる気配がありません」


 三日間飲まず食わずで眠り続けてだるい体に水だけ流し込み、横のベッドで寝ていたメーヴォに目をやった。

 死体のようにピクリとも動かず、薄い呼吸音に合わせ僅かに上下する胸の動きに、ようやくまだ生きている事を確認できる。


「三日過ぎでこれかよ。大丈夫か?」

「正直、手を打たないと危険かもしれませんよ」


 セイレーンの悪夢は、最初に人を安心させてから落としていく。深い眠りは安心している夢の暗示だ。辛い夢に変われば呼吸が荒くなったりする。そうすれば後は目覚めるのを待つだけだ。


 だが、悪夢が時として良い夢に変わる事がある。抵抗する気がなく、その夢の悪い結末を受け入れてしまうと、目覚めずに衰弱死する。そのデッドラインが四日。死の四日目。蒼林あたりの国じゃ四は死に通ずると言うらしいが、飲まず食わずで眠り続けるんだから流石に四日はやばい頃合いなんだろう。


「気張れよメーヴォ。これが乗り越えられなかったら、海賊勤まらねぇぞ」

「……ホント、随分入れ込んだね。供物に祈りでも捧げるんですか」

「うるせぇよ」

「貴方は変わりましたよ」


 エトワールの溜息にも似た一言を背に、俺はペコペコの腹に飯を詰め込むために医務室を後にした。

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