第九幕『遺跡へ』

 試練の神殿は殆どが崩れてしまっていて、此処で何組もの海賊たちが剣を交えた事を伺わせる。大剣、小剣、弓矢、拳、魔法、銃、爆薬。ありとあらゆる攻撃方法の痕跡が見て取れた。爆破の痕跡が一番大きく、一番美しい。


 倒壊を免れた神殿の奥に進む。そこには在り来たりな礼拝堂が辛うじて残っており、巨大な石版だっただろうレリーフが最奥に鎮座していた。レリーフを飾っていたであろう金銀宝石の類は奪い取られ、それはすっかり巨大な石塊に成り果てていた。


「何かこれ以上の物があるとは思えんな」

「そう言うなって。コッチだよ」


 言ってレリーフの裏に隠された空洞へとラースは身を滑らせた。その空洞すらも、幾人もの人間が通った形跡が残されている。本当に探索し尽くされているのだな、と感心するくらいだ。しかしこの土壌は……ふむ。これは採取していくか。


「おい、何やってなんだよ早く来い!」

「わかった、すぐ行く」


 今度からナイフと麻袋を携帯する事にしよう。少量の土を掘り返しそれを鞭の柄へと仕舞う。火薬の化合物になる土だ。これはある意味、僕にとっての宝ではある。


 ラースの後を追って空洞の奥へと足を進めると、そこに小さな祭壇があった。祭壇の上でラースが手を振っている。


「ココだ!コレコレ!」


 その足元に、青い錆に覆われた髪飾りのような物が埋まっていた。


「コレは何だ?」

「わからねぇ!だがコイツを掘り返そうにもちっとも外れねぇんだ」


 膝を付いてよく観察してみるが、石にビッチリと食い込んでいて、この石を割るか当の髪飾りを割るしかないくらいだ。しかしコレに価値があるとは思えない。青錆で今にも朽ち果てようとしている鉄の塊にしか見えない。石に食い込んだ程度の物珍しさでしかない。強いて言うなら『名だたる海賊が破壊出来なかった』といわくつきの髪飾りか。

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