第二幕『暴君降臨』

「新しいクルーだ!技術者だから丁重にもてなせよ!」


 と、言うラース船長の声で深夜まで続いた歓迎の宴の翌朝。持ち場となる武器庫の扉を開けた瞬間、雪崩を起こした剣や銃、弾薬箱に僕はあっと言う間にキレた。


「なんだこの有様は!」


 体力自慢の船員と、手先の器用な船員を五人ずつ借りて、僕は武器庫の掃除と整頓から事を始めた。丸一日かかって武器庫を綺麗にし、搭乗二日目から船内全体の掃除を開始した。男集団である海賊なのだから、几帳面なまとめ役がいなければ荒れて当然だろうが、それでも船内は酷い有様だった。

 一日で僕の言うことを聞いてくれるようになった十名の船員を筆頭に、船長だろうが何だろうが、強制的に船内掃除をさせた。副船長に至っては、何処か満足げに笑って僕の事を放任した。


「おめぇ船から突き落とすぞ!」

「ならば貴様の魔銃はいつまでもそのままだぞ」


 船長の抗議の声であっても、必要不可欠な技術者である僕の一言にはぐうの音も出ず、大人しく船長室の掃除に取りかかってくれたので、三日目には船内が見違えるほど綺麗になった。大柄だけど気の小さい船医と副船長が両手を挙げて喜んだ。


 これでこそ、満足いく仕事が出来ると言うものだ。クラーガ隊と呼ばれるようになった十人を従え、錆び付き掛けた砲台を磨き、銃をバラして整備させた。船長の持つ魔法銃は僕が看た。とは言え、結局彼の魔法銃も整備不足のカス詰まりが原因の単純な不良だった。

 魔力にも残りカスと言う物がある。火薬の燃えカスと同じで、それを取り除いてやらなければ、本来の威力を発揮することが出来ない。整備が終わって試し撃ちにと上空へ放った魔弾は、綺麗な直線を描いて真っ青な空へと消えていった。船長の歓喜の声も、空と海の青へ溶けていった。


 船内のあらゆる銃砲を整備し終えた頃に、船は次の港へと寄港していた。僕が船員になって十日目のことだった。

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