第二話『新米海賊と魔法生物』

第一幕『ようこそヴィカーリオ海賊団へ』

 人の命など大したモノではない。特に僕の命などその最たるモノだ。父も母も殺したし、幼なじみで初恋の相手だった女も殺した。その全ては、火薬の前には塵も当然だった。


 爆発を引き起こす火薬やそれに類似する薬品などは、今後世界の覇権すらも左右する強大な力に成り得る代物だ。ヒトの命などでは計れない、歴史と共に進化するであろう偉大なものだ。

 黒色火薬が一般的なこの時代だが、一説には油とは違い水の様に無色透明で粘度の薄い燃える水や、衝撃を与えるだけで爆発をする水が存在すると聞く。それらはドラゴンの血や体液などではなく、人工的に生成出来る強力な爆薬であるらしい。


 それがあればどれだけ素晴らしい兵器が作れるだろうか。どれだけの人間を瞬時に消し去ることが出来るだろうか!両親も、そして幼なじみの女も、僕のその考えを否定した。火薬は人殺しの道具じゃない、と。だから殺した。人の命など、大したモノではない。歴史に名を残すことのない矮小な人間の命など、使い捨ての実験道具と大差ない。


 殺人鬼として、爆弾魔として処刑されそうになっても、僕の中に殺人への懺悔や後悔はなかった。ただただ、まだ見ぬ爆薬への期待が胸の内にくすぶっていた。

 ヴィカーリオ海賊団のラースタチカ船長に、火薬の専門家だから、と言う理由で処刑場からかっ浚われた訳だが、正直に言えば生き延びられるなら何でも良かったし、海賊ともなればまだ見ぬ爆薬にも近い将来辿り着けるかもしれないと高をくくって、入団を決めた。


 まさかこんな事態になるとは思っても見なかった!

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