無茶を可能にする

「そもそも"キョンシー"って、未知の領域だから、どんな生態か謎なんだよ。」


「あー…、あたしもいきなり過ぎたわね。

でも、戦争以外に"キョンシー"に悩まされてるのよ。

生態、ねぇ…。

昔は夜中に現れてたみたいなんだけど、魔王云々で永遠の夕方になってからは無差別で現れるの。」


確かに、昔見たキョンシー映画は、夜だったなぁ。

可愛い女の子がキョンシーと戦う、アクションホラーだった気がする。


「まぁ、困ってるなら助けないわけにはいかないヒーロー気質なんだけども。

"キョンシー"が昔からいるなら、対処法とかないの?

噛みつかれたり、お札をおでこに貼ったり、気功か波動とかでぶっ飛ばしたり。」


きょとんとされちゃったよ。

やっぱ、井戸の用途が違うように、"キョンシー"の生態情報も違うのかな?


「えっとね。普通に対処しても、倒せるんだけど…。」


顔を曇らせる。

けど?


「不規則にやってくるから、見つけ次第倒してはいるの。

…でも、どこからやってくるのかがわからないし、数も把握出来ていないわ。」


「…要は、アジトを割り出して根絶やしにするってことかな。」


出来れば和解したい。

いつか魔王と戦うときに戦力が必要だから。

ボクの世界の"キョンシー"と違って、対話が出来るなら、勝機はある。

きっと誰かが、彼らを誘導しているはず。


「そう考えているわ。」


「ボクは…上手くしてこの国の戦力にしたい。」


「…え?会話の実績はないはずだけど。」


「もしかしたら、誰かが操ってるかもしれない。

ソイツとは話せるかもよ?希望は大事。

悩むほどなんだから、強いってことでしょ?

だったら、どうにかして説得出来たら最高じゃない。

因みに、戦争のためじゃないからね?

魔王が復活したら、ソイツも困るはずだし。共闘ってこと!」


「ふふ…。あんたが来てくれて助かったわ。

あたしたちだけじゃ、全く思い付かなかったもの。

兵は使えるだけ使っていいわ。」


あら、なんて太っ腹!


「そだねー。警戒されないように、街中ではいつも通り戦おう。

少人数で逆流して、アジトを見つけてくるんだ。

絶対にバレちゃいけないからね?」


「そうね。得意な精鋭を数名、指名してくる。

…あたしは何したらいいかしら?」


お?やる気だね?


「シェンメイさん、かなり腕が立つ方なんじゃないかな?

だから乗り込むとき、ボクを守ってね。

ボク戦えないし!!」


「あら、喜んで守っちゃうわよ?うふふ。」


……この人の素が全くわからない現実。

たまにいるよね。綺麗を追及してるだけの人。

シェンメイさんは、マクシミリアンくんたちより小柄。

基本骨格も女性寄り。上質な女装氏ですな!


ぱっと見、細かく観察しなきゃバレないだろうね。

化粧も綺麗だし、多分元もいいんだろうな。

素材が素晴らしくいいってもんじゃないだろ。

これで、『産まれてくる性別間違っちゃった☆』と言おうもんなら、間違いなく性転換手術を勧めたい。


「なぁにぃ?見つめちゃって。あたし、綺麗過ぎるかしら?」


…ナルシストって言うとちょっと違うけど。


「いやぁ、見事だなぁと思ってさ。

元も悪くないんだろうなってね。」


「あらぁ、男らしいあたしがみたいの?

気になっちゃう?うふふ。」


ただの趣味的興味なんだけどなぁ。ブレないなぁ。




「王子!…また、その格好で!いや、今は!"キョンシー"どもが現れました!」


鎧のにーちゃんが駆けてきた。

まだ、何も準備してないのに。

世間話に花が咲きかけてたよ。


「…煩いわね。三将軍をこちらに!皆はいつも通り対処して!」


「畏まりました!」


鎧のにーちゃんがもと来た道を引き返す。

無理矢理にでも捩じ込まなきゃだね!

…精鋭が三将軍なのかな?


「グタグタ言われちゃう前に着替えてくるわ。あーん、この格好のが好きなのにぃ。」


どさくさに紛れて抱きつくのはやめてほしいな。

シェンメイさんがブツブツ言いながら去ってから気がついた。

……シェンメイさんいないのに、途中で三将軍来たらどーすんだよ!


あー、それっぽいの来ちゃったよー?

ガタイの良さそうな人と、細マッチョみたいな人と……スレンダーなお姉さんが!


「そこの娘!シェン皇太子を見なかったか?!」


豪快なガタイの男性がでかい声で聞いてきた。

本名はシェン…神…。(ぷっ


「あー、着替えてくるって走ってどっか行っちゃったっす。」


「あの方は……。」


破天荒な王子なんだなぁ。


「ところで、あんたは?俺は"クガイ"だ。」


細身の男性が落ち着いた口調で聞いてきた。


「ボクは、華凛だよ。」


「私は"ハクロ"。皇太子とはどんな関係でしょうか?」


スレンダーなお姉さんも話し掛けてきた。


「たまたまではあるんだけど、事情があって、この国の王子を探してたんだよ。」


ガチャリと腰の剣に手を掛け………?!


マテマテマテ??!

超警戒されてね?!


「よせ!"セイセツ"!女人だぞ!」


ハクロさん!ありがとうございます!


「ええと、間者とかそーゆーんじゃないんで。」


「だったら、何だと言うんだ?!」


あー、面倒臭いタイプだなぁ。


「…俺のカリンに、剣をつきつけようとするのはやめてくれない?」


あれ?この声質は……。


「「「シェン皇太子!!」」」


…デスヨネー。

後ろから絡むのやめてほしいなー。

見上げると綺麗なにーちゃん、基素顔のシェンメイさんがいた。


「…誰が"俺の"だって?それに本名は"シェン"ねぇ。」


「怒らないでよ、カリン。仕方ないじゃないか。」


仕方ないっちゃ仕方ないんだけどさ。


「…勘違いで、別の疑惑の目を向けられてるんだよ。」


明らかに"俺の"発言で、見知らぬ女の子との関係を疑う目だよ。


「えー?俺と一緒になっちゃえば問題ないよ。」


ダメだ、煽ってやがる!


「だが断る!本題に移りなさいよ!」


三人は渋い顔、シェンは笑ってる。

説明しないなら、作戦の話しろや。


「ごめんごめん。クガイ、セイセツ、ハクロ。彼女はカリンて言うんだ。

…彼女は和平交渉に来たんだよ。」


「…和平?それならば、間者とかわりない!」


「待ちなよ、セイセツ。俺はカリンの話を聞いて、"承諾"したんだ。」


「勝手にまた…。」


「クガイ、安易に承諾したわけじゃないよ。

彼女はちゃんと俺に経緯を説明してくれたからね。」


「分かりやすく説明頂けますか?主上。」


「うん、ハクロ。ちゃんと説明する。」


…何だかんだで信用はされてるんだなぁ。


「カリンは、"井戸異世界"とは別の"異世界"から来た。

不安もあったろうが、持ち前の頭の良さで話し合いをしてきたらしい。

"ウェルグランド"、"ウェルゴールド"、"ウェルガーデン"、"トイ・ウェル"。

他の王子たちと対等に渡り合った。

あのマサチカでさえ、"戦争"を無意味にすることをやめたらしい。

ここに来れたのも、マリウスの協力あってのことだろう。

彼女の言葉だけでは、信じられないかもしれないね。

けど、カリンの目は"嘘をついていない"。

だから、和平を承諾する代わりに条件を出した。

カリンの力量をこの目で見るために。

…"キョンシー"を共に対処するよ、三将軍。」


考えてはいたんだね。

三人は渋々承諾してくれた。


兵隊はいつも通り、交戦する。

…既におっ始まってるけど。

このクガイさんとハクロさんとセイセツさんの精鋭三将軍で、アジトを隠密に割り出す。

直ぐには交戦せず、報告に戻る。

けど、行きも帰りも警戒は怠ってはいけない。


同じならば、"キョンシー"は死体だ。

マリウスくんの"人形"に付随するもの。

必ず誰かが操っているはず。

危険でなければ、それも確認してほしい。

無理に戦闘に持ち込めば、"ミイラ取りがミイラになって帰ってくる"可能性もある。

それだけは避けたい。

少しでも情報はほしいが、無理は禁物。


至って作戦はシンプルだ。

練りすぎても動きにくい。

しかし、シンプルだからと下手な行動に出れば、ミスもしやすい。

周りの様子を少しでも観察してくれたら十分だ。

考えるのはボクがする。


帰還後、作戦会議をしてから、五人でアジトに向かう。

目的はあくまで"交渉"。

戦力になるなら、好条件を用意し、話し合いに持ち込む。

相手がどう出るかはわからない。

だから、最悪は敵将を殺さなくてはならない。

しかし、"対処"がミッションだ。

どちらも想定しなくてはならない。


……三人は三様に悩んでいた。


「私は構わないですが。」


「俺も構いません。」


「…しかし、"生かす"のは解せません。

我々は散々悩まされてきたのです。

どうお考えですか?主上。」


やっぱりセイセツさんが絡んできた。


「どうって?戦を好まない者としては、いい案じゃないか。

カリンは戦争を体験こそしていないかもしれない。

けど、戦争とは避けられないものだから史実くらいあって把握していると思う。

だから、この作戦は最善じゃないかな。

"交渉術"だって立派な作戦だから。

"事前調査"をすることによって、勝機はあるものさ。」


「ぐっ…。」


シェンくんに言われたら、"小娘の戯言"で片付けられないもんね。

しかしまぁ、あの話でそこまで考えてるとは、侮れないな。

王子の軍法会議とかしたら愉しそう!

…マサチカが引っ掻き回しそうだけど。

でも単細胞な意見も、重要ではあるからな。


「確かに60年かそこら前には、ボクの育った国でも戦争してたよ。

今でもやってる国あるからね。

だけど、大規模な戦争まではまだ対応しきれないかなぁ。」


小規模な国間、基井戸異世界間でなければむずかしかったかもね。


「うむ…。カリン殿の世界では、戦争は明確にしるされているのですか?」


そこは怪しいんだよね。


「使われた兵器や、被害状況とかは信用出来ると思う。

未だに修復しないで、残してる場所もあるから、照合も容易い。

でも、国ごとの私情は少なからず入ってるから、他国との史実に差異が生じてるのは確かだね。

悪意か、思い込みかは謎だけど。」


「それはどこも変わらないかもしれないよね…。

誰しも、自分が優位で有りたいから。

事実をありのままで受け止め切れない心理状況も、理解できないでもない。」


本当はまんま載せて、未来に役立てるべきなんだろうけど、そこは複雑だよね。


「…安易に考えていないことはわかった。

我らが今すべきは、敵陣調査でよろしいか、カリン殿。」


あ、認めてくれたってこてかな?


「うん!セイセツさん、クガイさん、ハクロさん!お願いします!」


頷くと、シェンくんに向き直る。


「「「主上の御為に。」」」


シェンくん頷いた。

三人は"キョンシー"の視界を避けながら、出現スポット探しに旅立っていく。


「…はぁ!もー、堅苦しくってやんなっちゃう!」


おおぅ!そのままでキャラチェンすか。


「カリン~!夏場に男物って最悪なのよぅ!」


だったら、抱きつくな!こっちも暑いわ!


「にしても、カリンの格好涼しそう。」


見ても貸さねぇぞ?

量産型の既製品ではあるが、ただのセーラー服だ。


「やっぱ、乗り込むときはあっちがいー!」


勝手にしてくれ。


「三人を説得しなきゃでしょうが。」


優しいなぁ、華凛さんは。


「うー、分かってるわよぅ。」


こっちのが喋り、地なのかも。

…まさか、バイとか。



………正直、どうでもいーや。


「ねーねー、カリン!あたしの男装どうかしら?カッコいい?」


今更かよ、てか喋り戻したら違和感アリアリなんだけどな。


「あー、カッコいいんじゃね?」


我ながら、興味の無さが明るみに。

要するに雑な答え方をした。


「なによ?何か変?」


「…君にメリハリと言うもんはないのか。」


「………あ。あらやだ~!あたしったら!」


気がつくのおせーよ!どんだけ無意識なんだよ!


「…たまに肩の力を抜かせてくれたっていいんじゃない?」


イケボ返ってきたが、そもそも今日会ったばかりだから"たまに"もクソもねーわ。


「油断し過ぎだろ。ボクが間者だったらどうするんだよ?」


「…心中しちゃおうかな?」


"心中"の意味ググリやがれ!とんだ皇太子だ。





帰ってくるまでは何もすることがない。

下手に憶測だけですすめることも出来ない。


「…シェンくん。」


「何?」


「お腹すいた!」


「クスクス。では、軽くなにか用意させようね。」


待つなら中で待とうと、豪華なシェンくんちに来た。

やけにお城に縁があるな。

何か宮廷みたいな圧倒感のある門構えや屋敷のどこからでも見える場所に庭園があったり。

通路が屋根つきで、短くても手すりつきアーチ通路になってたり。

……疲れてるときはしんどいよ、この急斜程度も。


漫画や小説の世界を型どったような空間に感動する。

現代の中国行っても、こんな空気は爽やかじゃないだろうし。




中国って歴史はとっても重宝されるけど、食べ物は毛嫌いされる。

実際の繁華街は、東京と変わらないのに。

丁度話題にピッタリな"鰻"。

あれさ、中国産が滅茶苦茶避難されてた影響で中々市場も出回らないらしい。

スーパーでも鳴りを潜めてる。


中国が中国だけで生産してたなら、疑われることばかりニュースになってるからわかる。

でも、実の所、"中国で育成・生産して、日本人がチェックする"形式で出来たものが日本に来る。

日本人が中国で工場建ててやってるんだから、品質は同じなんだよ。


やれ、中国の空気が嫌だ?

中国行ったこともないのに言ってる場合が多い。

やれ、兎に角中国ってついてるから嫌だ?

人種差別までする権利がどこにある。


だったら、"~産"って意味はわかってるのかな。


"そこで育った"×

"そこで水揚げされた"◯


潮の流れや泳ぎ方や種類で、流れ着く場所が変わる。

"養殖"でない限り、"国産"は育った場所なんて細かく調べなきゃわからない。

魚屋さんだって、ざっくりだよ。

100%ここで生まれました、なんてよっぽどじゃなきゃ言えないし。


そもそも日本を拡大したら、中国と変わらない貧富の差が明るみになる。


……ま、こんなこと言ったら、魚介類食べられなくなる人が出るかもだけど。

全ては事実だから、仕方ない。

『商売あがったりだ!』と物凄く近くから聞こえそうだけど、キコエナイキコエナイ。




見事に景色を忘れる話題になった。

いつの間にか、シンプルだけどセンスのいい部屋に通される。

………ベッドにでかいくまさんいるな。

しかも、超フリフリ着てるよ。


「シェンくんの部屋か!」


「…よくわかったわね、うふ。」

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