前半で はしゃぎすぎると燃え尽きる⑧


◇◇◇


 合図を受けて、白団団員達の動きが変わった……そう思った瞬間、彼等は驚くべき行動を取った。

 それは今後のあらゆる攻防をかなぐり捨てたまさに捨て身の行動だった。

 だがしかし、その行動に青団団員はまさしく一人残らず度肝を抜かれたのだった。


 この瞬間、白団団員の大多数が……敵を追う者も追われる者も、攻める者も防ぐ者もその動きを止め、手にしたアクション棒を――戦場の中心地に向けて全力で投擲していた。



◇◇◇



 前後左右、そして頭上から何十ものアクション棒が襲い来るという予期せぬ事態に、さすがの諸星もぎょっとした。

 それはセイギも同様だった。

 何本かを叩き落しても、とても全ては捌ききれない。例え頭を庇っても全身を打たれたダメージは絶大なものとなり、その後の動きに支障をもたらすだろう。

 しかし、思わぬ衝撃は背中から来た。


「リーダぁっ!!」


 声と共にセイギの身体が押し倒される。



 ズドドドドドッ



 地面に背中を打つ衝撃に続いて、自分の上に覆いかぶさる身体越しに鈍い衝撃が断続的に襲い掛かる。呻くような荒い息遣いが耳元に届く。

 衝撃が止み、やっと状況を理解したセイギは、自ら盾になったその軽い身体を急いで抱き起こした。


「おいっ! 大丈夫か……――らん丸!!」


 身を挺してセイギを庇ったらん丸は、立つどころか自分で起き上がることも出来ない様子だった。全身を走る痛みに顔を歪めていたが、顔色を変えて覗き込むセイギを見つめ返すと、ちょっと笑ってみせる。


「……えへ……元に戻す、チャンスだったのに……飛び出しちゃった……。悠馬に……怒られ、ちゃうかな……」

「らん丸……っ!」


 そして諸星の眼前にもまた――陣内が立ちはだかっていた。

 諸星が払いきれないアクション棒を叩き落とし、時には自らの防御を度外視して諸星を、団長の身を守ったのだ。


「陣内さん! 5年のおんしがわしを庇ってどうするんじゃ!」


 いかな団長といえど4年の諸星の点数は350点、対して5年の陣内の点数は800点にも上る。庇うにしても立場が逆ではないかとの非難の声だった。

 しかし陣内は静かに首を振った。

 もしも団長である諸星が倒れれば、恐慌状態パニックが起き青団の士気の乱れは修復しがたいものとなる。そうなればもはや陣内の指揮能力では建て直すことは出来ない。それだけ団長というものはなくてはならない、まさに頭といえる存在なのだ。そして副団長である陣内が倒れた時にその混乱を鎮められるのも、その頭以外にはない。

 陣内はこの局面においても冷静にそう分析し、行動で示したのである。


「団長を守り佐けるのが副団長の役目ですから……ああしかし、どうやら私もこれまでのようです」


 そうして副団長は穏やかな顔で振り返る。


「――あとは頼みましたよ、団長」


 らん丸が、そして陣内が戦線離脱し。

 そして、残された二人は。


「……おんし、やることは判っとるじゃろうな」


 諸星が、散らばるアクション棒の中からひとつを拾い上げる。抑揚のない声に沸々と燻る激しい感情が垣間見えている。


「おうっ! 二人の仇……この俺が取ってやるぜ!」


 セイギも眼前を見据え手にしたアクション棒を構えた。その瞳に熱い炎がもえている。

 二人の眼前にはこの機に乗じて諸星までも討ち取ってやろうと突撃を開始する白団の残り勢力と、それを阻止せんとする青団団員がぶつかり合う光景が繰り広げられていた。

 怒りという名の衝動を身にまとう二人は、つがえられた矢の如く今にも恐るべき勢いで戦場に放たれようとしていた。

 そんな張り詰められた緊張感の中、諸星は敵を見据える視線を揺るがすことなく、ぽつりと問いかける。


「…………キャラ変わっとらんかおんし」

「怒ってるからだ!!」

「そうか。」


 即答するセイギに。


「………………絶対違うじゃろ」


 どうしても見過ごせなかった諸星の端的なツッコミが炸裂した。


 この後、怒りの諸星とセイギが鬼神の如き大暴れを見せ、かのガキ大将よろしく白団応援団員達をめっためたのギッタギタにのして回ったことは言うまでもない。



◇◇◇



『輝く舞台は自分が主役、飛び入り参加は望むところだ、同じ馬鹿なら騒がにゃソンソン♪ 学科対抗競技『ぼくのわたしの必殺技しりとり競争』〜〜ッ!! 本日最後の競技はまさしくデッドヒート! 炎と情熱の放送部員を自負するワタクシ穴田実もたじろぐほどのこの熱気! 続々と飛び入り選手の技が繋がれて行きます!!』


 スピーカーから風に乗ってテンションの高いアナウンスが流れてくる。


「……今年の体育祭ももう終わりか」


 遠くの空に爆煙花咲く光景を眺めながら、感慨深げに悠馬が呟く。


「おれ達が応援団入ったのってたった3日前なのに、なんだかすごーく長く感じるよ」


 らん丸もしんみりとした口調で答えた。

 最後の競技が行われている運動場から絶え間なく聞こえる歓声が、青団の陣地にいる二人の耳にも届く。夕日に溶けるそのどこか遠い声援がなんともいえないもの寂しさを感じさせる。


「らんお前、怪我したところは大丈夫なのか?」

「あはは、大丈夫だよ。でも全身アザだらけ。〈ハンマー〉持ち上げたときはさすがに痛かったかな。悠馬こそ、あのトシヤって人とは決着ついたの?」

「いんや、時間切れの引き分け。しかし内容的にはこっちが勝ってたな」

「ふうん――あっ副団長だ」


 らん丸がモニターを見上げる。


 技が繰り出される都度それぞれの審査員席の教師達により得点が挙げられている。




『食らいなさい! 平賀流科学忍法・〈バトルフェニックスOSAMU〉!!』


『おぉ〜〜〜っと“科学科”では巨大な鳥の形をした炎が空に舞い上がる! これは圧巻です!!』




 うつくしさ   40点

 かわいさ    10点

 かっこよさ   80点

 渋さ      10点

 情熱      80点

 派手さ     100点

 意外性     40点

 ネーミング   60点





 …ワァァァァ…





 セイジが見ていたら大興奮だっただろう。悠馬とらん丸の二人も思わずおお…、と感嘆の声を上げる。




『心に煌け! 〈ムーンライトクリスタル〉!!』


『“戦闘科”も負けじと火の鳥の軌道を覆うように青く輝く光の帯が放たれます――!!』




 うつくしさ   90点

 かわいさ    50点

 かっこよさ   10点

 渋さ      10点

 情熱      80点

 派手さ     70点

 意外性     10点

 ネーミング   30点





 …ワァァァァァァァ…





『学科対抗リレーの雪辱を今こそ晴らす時……見よ、我が特訓の集大成〈ルン・ルルン・大魔球〉ーーッ!!』


『“一般科”球一選手大きく振りかぶって――――高々と掲げられる小指ィィィッ! これがルン・ルルンたる所以か〜〜っ、一度沈んだボールがバッターボックス前で大きく跳ね上がるぅぅぅっ!!』




 うつくしさ   10点

 かわいさ    10点

 かっこよさ   80点

 渋さ      30点

 情熱      100点

 派手さ     30点

 意外性     90点

 ネーミング   100点





 …ワーワーヒューヒュー…



「おれさ、『赤虎』の活動以外で初めて上級生とか他の学科の人達と関わったけど……色んな意味ですごい人達がいっぱいだったね」

「ああ、本当に。キャラが濃いというかバラエティに富んでるというか……上には上がいるとかいうけど、この馬鹿リーダーがそのランキングのかなり上位に食い込んでると判って改めて頭を痛めてるところだよ、オレは」


 そう言って悠馬はすぐ隣の地面に視線を落とす。


「しっかし……こいつってこんなに強かったんだなぁ」

「悠馬、一体今までリーダぁのことなんだと思ってたのさ?」

「ただの馬鹿」


 実も蓋もない物言いである。


「……てのは最初から判ってるからいいとして。現実問題、応援団団長とも渡り合えるほどの実力を持ってるとは思わなかったぜ。“一般科”の赤石あかねにすら勝てないでいたんだからな」

「そういえば。どうしてだろう……変身後のレベルが低いから? それともあかねさんがものすごく強いの?」

「さてな」


 頭にどでかい二つ目のたんこぶを作り隣に転がるセイジを見下ろしながら悠馬は独り言のように呟くのだった。


「もしかしたら――――こいつ側の問題なのかもしれないな……」



◇◇◇



 《青龍》チームはこの年の体育祭で総合優勝を飾った。

 この日より、入学以来一部の生徒の噂としてそこそこ知れ渡るセイジの名に新たな肩書きが加わった。

 曰く。入学時、厳しい体力実技でずば抜けた成績を修めた者として。入学早々から色々とやらかす問題児として。そして、諸星擁する青団の『秘密兵器』として――。

 これより『一年“は組”のセイジ』の名はこれまで以上に方々に知れ渡り、様々な思惑により目を付けられることになっていくのだが…………現在部下に力いっぱいぶん殴られて絶賛気絶中なセイジには、およそ知る由もないことであった――。



◆十一番勝負〜体育祭編 最終〜 終


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集え!あくひろ学園 ~有志たち~ 世間亭しらず @yuuyami

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