またの名を あやとり名人すないぱー⑦


◇◇◇


 十分後、合戦の際の各人の配置が発表された。

 団員達が順番に名前を呼ばれ、対緑団チームと対銀団チームとに振り分けられていく。

 セイジ・悠馬は対銀団チームの二軍、らん丸は対緑団チームの一軍に入れられた。人数的にはほぼ均等に振り分けられているが、1年は二軍に多く入れられている。諸星と陣内はどちらも一軍だ。

 諸星は一軍に、銀団と協力して緑団を討ち取る事を伝えた。開始と同時に銀団と示し合わせて緑団を挟み込む作戦だ。そしてその際銀団に手出しは無用とも言った。

 逆に銀団と手を組んでいる事がばれてもいけないので対銀団チームの二軍を編成するが、こちらには点を奪うことよりも生き残ることに専念するようにと指示を出した。


「主力は緑団に集める! 銀団へは1年に多く行って貰う事になるが、銀団も幾らかはこちらに向けて兵を寄越す筈じゃ。おんしらの力では全力で抵抗しなければ無駄に青団の点数を減らされる事になるじゃろう。そのような事態だけは許さん! 共同戦線を組んでいるからといって、決して油断はするな! 周囲の状況を良く見て判断を下せ!!」

『押念っ!』


 合戦の地は、学園の敷地にある第二フィールド。広い草原が続き障害物もない平地である。

 まず三つの団は一箇所に集まり、競技の開催を宣言した。これはプログラム進行で決まっている流れだ。その後各団ともフィールド上に思い思いの布陣を敷いて開戦を待つのだが、その移動中にセイジが突拍子の無い声を上げた。


「んなっ!? あれは……ッ!!」


 近くにいる間に敵側の顔ぶれでも見ておいてやろうと銀団から緑団までをざっと眺めていたのだが、その途中、緑団の中にとても見覚えのある顔を見つけてしまったのだ。


「どういうことだ! 向こうの援団にあの女が混じっているぞ!」


 セイジがこういった表現をする人物といったら、『赤虎ひのえとら』の天敵である少女達しかいない。特殊な貴重アイテム――リメタイルを巡り攻防を繰り広げている憎き相手だ。しかし攻防といっても、残念な事に一度として『赤虎』が攻めきれた事は無く毎回返り討ちにされている。


「マジかよ? あの三人組?」


 隣を歩いていた悠馬が聞き返した。


「いや、赤石あかね一人だけだ。他の二人は見当たらんな」


 あかねというのは天敵三人娘のうちの一人、元“戦闘科”だった現“一般科”の少女である。


「え〜っ、なんで? 女の人が援団入るのは判るけど、“一般科”でも入れるものなの?」

「まぁ。理屈上は学園の生徒であれば誰でも入る事が出来るからな」


 応援団は変身をしない生身での活動が基盤だ。極端な話どれだけ変身レベルが高い者でも、基礎身体能力が低ければ相手にされる事はない。逆に“一般科”であっても基礎レベルが上限を満たしていれば入団は可能なのだ。

 しかし実際のところあかねが現役の“戦闘科”を押しのけて入団を果たしているということは、やはりそれなりのスキルを持っているという事なのだろう。


「こりゃ案外、例の〈アップリケ〉攻撃もアサギあたりの入れ知恵かもしれないな。彼女、見かけによらず随分とクセのある性格してるみたいだし」

「向こうも悠馬には言われたくないだろうね」

「最近遠慮がなくなってきたなお前?」


 にこやかに言うらん丸の減らず口をつまんで引っ張る悠馬。


「ぬははははっ。葵のいない今こそあかねの奴をぶっ飛ばす好機ではないか!! 俺さまの恐ろしさをその体にとくと刻み付けてやる!」


 そう叫ぶとセイジはどこぞに駆け出していってしまった。

 ぶっ飛ばすのは構わないが、肝心のリメタイルを持っているのは今ここにいない水戸葵という少女である。


「もしかしてセイジの奴、リメタイルの事きれ〜サッパリ忘れてんじゃねぇだろな……」

「それに変身していく訳じゃないんだから、あの人の前に出てったって向こうには誰だか分からないと思うけど……」


 他人事のような会話をしていた悠馬とらん丸は、そこでゆっくりと顔を見合わせた。

 思い出したのだ。

 あかねが、と顔見知りだということを。


『ああああ〜〜〜〜〜ッ!!!』



◇◇◇



「団長! 俺さまを一軍に編成してくれ!!」


 セイジが向かったのは団長である諸星の所だった。会うなり意気込みあらわに宣言をしたセイジだったが、しかし諸星はそんなセイジを一瞥すると一言の元に切って捨てた。


「ならん」

「なぜだ!! そこらの5年一人と入れ替えればよい話ではないか!」


 あっさり言い切るが、そんなセイジにいきなり拳が飛んできた。ズシンと重いその一撃を慌てて受け止めるセイジ。

 受け止められた拳の力を緩めるでもなく、逆に諸星は怒れる顔をセイジの面前に突き出した。


「おんし頭脳をどこへ置いてきたんじゃ。5年一人とおんし一人の価値が同じものだと本気で思っとるんか?」


 頭上に振り下ろされようとする鉄の一撃を必死に食い止めながら、セイジは瞬時に思い当たったことを叫ぶ。


「ハイシャンプー・リンス・コンディショナーかっ!」

「ど阿呆ッ! 何を戯けた事をぬかしとるんじゃ! 良いか。おんしは絶対に二軍でなければならん。こちらから削れるような戦力は一人として居らんし、おんしにはやって貰わなければならん事もある」

「ふむ……?」

「……おんしにしか出来ん仕事じゃ。おんしの頭脳担当にもきちんと伝えておけ」


 そう言って諸星はセイジの肩を引き寄せると短く耳打ちした。



◇◇◇



 セイジを追いかけていこうとした矢先に停止の合図が鳴り、残された二人は一軍と二軍に分かれなければならなくなった。

 悠馬とらん丸は気を揉みながらも、どちらかがセイジに出会ったら思い留まるように言おうと話し合い、互いの列に混ざった。

 するとあまり経たないうちに、悠馬の元にセイジが帰ってきたのだった。


「セイジ……! どこ行ってたんだ……?」

「団長の所だ。配置を緑団側に変更してもらおうと思ったのだがな、断られた」


 ――グッジョブ団長!!


 心の中でサムズアップしてから、その割にはこいつの機嫌が悪くないなと思う。どちらかというと難しい顔をして首を傾げていた。


「こちらで俺さまにしか出来ない事があると言われたのだが、今ひとつよく分からなくてな」

「何をしろって言われたんだ?」

「“動きがあるまで反撃はするな”……と」


 それを聞いて悠馬も怪訝な顔をした。


「動き……?」

「それとおぬしに伝言も頼まれたぞ。“扇動は頼んだ”だそうだ。何の事だか分かるか?」


 悠馬は団長の諸星が1年である自分に伝言を残したという事に驚いたが、同時に閃くものがあった。


「そういうことか! あの時オレ達の前であんな事言ってたのは……! ……オレ達に聞かせてた訳じゃなかったんだな……」


 一人で納得してなにやら呟きだす悠馬。

 痺れを切らしたセイジが問い詰めようとした時、その両肩を強く掴まれる。

 そして、『赤虎』の優秀な頭脳である悠馬は、正面からひたとセイジを見据えて、厳粛とも言える面持ちで言ったのだった。



「良いかセイジ。お前は――絶対に、反撃するな」



◇◇◇

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