第494話
「そんな感情論でエステネーゼやアルブケスはラスターに手を貸さないと?」
「人間は合理性だけでは動かない。それにこれは感情論だけの問題でもないわ」
そう言ってベルティーナは四選侯とラスター家の少々複雑な関係性を説明する。
「ドッシェのハウツローレン、ロマリアのエステネーゼ、ウェスパ二アのアルブケス、そしてフラーヌのオルディーヌ。四選侯と呼ばれるユロアの四大貴族にとってシルボラのラスター家は言わば異端者よ」
「異端者?」
「長らくユロアの大王位は四家によって独占されてきた。それも百年、二百年どころの話じゃないわ。それはつまり、彼らは互いに大王位をめぐり争い合う仲でありながらも、ユロアにおける一つの聖域を築く事に成功している証でもある。連邦の主導権は自分達が握り続けるという聖域」
「ラスターはその聖域を脅かす存在だと?」
「四家を競合者と表現するなら、彼らにとってラスターは聖域を脅かす外敵よ。異端者、異教者、何だっていいけれど、そういった脅威を前にすれば日頃争う仲の者達も協力を始めるわ。かつてアンヘイの脅威にフリア諸国がまとまったようにね」
「いくらラスター家とて四選侯に取って代わるほどの力を有しているとは思えんが」
「そう、今はまだね。だけどこれから先はどうかしら」
元来シルボラの街はこれといった産業を持たない小さな田舎街にすぎなかった。
そしてゴルディアの黄金が発見されてからも街の産業的脆弱さは変わることなく、連邦でも有数の豊かさを誇るようになってなお彼らの経済は壁の先からもたらされる黄金に完全に依存してしまっていた。
このような状態が百年以上もの長きに続いたのは、ラスター家の歴代の当主達がもたらされる莫大な富の多くをひたすら消費するばかりで、街の産業の育成に投資してこなかった為である。『無能ゆえの失政』、短絡的に捉えてしまえばただそれだけの事に見える事象ではあったが、彼らは何もまったくの考え無しに富を浪費し続けたわけではなかった。
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