第490話

 ベルティーナとてマルフスの預言を一分の疑いもなく信じきっているわけではない。

 ただ、預言の内容が内容だけに無視するのも惜しく、それが壁の王が耳を貸すようになったほどの男の預言だというのなら、なおさら切って捨てる事はできない。

 彼女にとってこれはひとつの賭けだった。

 かけがえのない主のもとを一時的にでも離れるだけの価値がある賭け。

「考えてもみなさいな、ラスター家の黄金よ。一介の田舎貴族をユロア有数の大貴族へと変えた黄金の山を手にする事ができるの」

「夢物語にしか聞こえんな。ゴルディアの金鉱はラスターの生命線だ。お前が何を企もうが奴らがそれを手放すことはない」

「だったら力ずくで奪い取ればいいだけのことでしょ」

「商隊を襲って積荷を奪うのとはわけが違う」

「そんなこと百も承知よ」

「灰の地に築かれた植民市の多くが十年と持たず消えていく中、ゴルディアは百五十年もの歴史を誇っている。その事実こそが、あの街が確たる戦力を有している証左に他ならない。名門オルジェア騎士団も今はゴルディアを拠点に活動していると聞く」

「『名高きオルジェアの騎士達も狐の黄金に目が眩み、牙の抜け落ちた犬と化した』なんて話も聞くわ」

「ラスター家の駒はオルジェア騎士団だけではない」

「そうね。連邦にはラスターの援助を受けている騎士や魔術師達が数多く存在するのはたしかだわ。でも、それがどうしたって言うの? ラスターがどれほどの手練れを飼い馴らしていようと問題じゃないわ」

 不遜な笑みを浮かべながらベルティーナは言う。

「私には古き炎の神々が付いている」

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