第475話
「壁の民の前哨地から北東の植民市を目指すこのルート。ずいぶん広い森を通るみたいだが、ライセンの目を活かすなら多少遠回りになるがこちらを通る方がいいんじゃないか?」
カムが机に広げられた地図の一端を指差して言う。
魔物や蛮人が跋扈する灰の地において視界の開けた場所というのは空からの目があるかどうかで安全性が大きくかわってくる。
鷹を自在に操る女を仲間に旅をするならば、あえて視界の利かない森を通るのはその理に反する。
レグス自身もそれはよくわかっていた。
「ああ、ここは『鳴き谷』を抜け『赤牙の荒野』を通ることにする」
「その方が良さそうね」
セセリナが手にした羊皮紙を眺めながら二人の会話に口を挟む。
「この資料によると、『紫花の森』には二百年ほど前にウルプスが流れてきて住み着いてるそうよ」
「ウルプス?」
聞きなれない単語にファバが尋ねると、彼女は軽い調子でウルプスについてを説明する。
「ウルプスは黒毛まじりの狐の亜人。狡猾で獰猛なうえに人間嫌いは筋金入りだし、精霊信仰もない。話が通じる相手じゃないわ」
「へぇ狐の亜人ね。壁の先には、ほんといろんなのがいるんだな」
狐の亜人について無知であったのは何もファバだけではなかった。
カムもウルプスという言葉を耳にしたのはこの時が初めてであったし、レグスすら昨日のうちに読み込んだ資料からその存在を知ったぐらいである。
灰の地はまさに種族の坩堝。そんな地で暮らす多種多様な者達を把握しようなど人の身では簡単にいかぬことだった。
あらゆる種族の名が至極当たり前のように口から飛び出す古き精霊の知識量こそが尋常ではないのだ。
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