第455話

――少しは成長出来たと思っていたのだがな……。

 そう思い、自嘲的な笑みを浮かべた時、彼女はあの苛立ちの正体を知る。

――ああ、そうか。そういう事だったのか……。

 レグス達の愚かさや頑固さこそが気に食わなく、あれほど腹を立てていたのではない。

 真に腹立たしかったのは、今だあの日の自分を諭せる言葉すら知らぬ己の未熟さだ。

 男を通して見るあの頃の己の愚かさを前に、今の自分の無力を思い知る。

 それがたまらなく苦痛だったのだ。

――無様だな……。

 恥ずかしく思う。

 真心からではなく苛立ちをぶつける為に声を荒げてしまった己の愚かさを、本当に恥ずかしく思う。

 けれども、今さら頭を下げたところで何がどうなるというのだろう。

 望めば、たぶん彼らならまた受け入れてくれるに違いない。

 だが男と少年の旅において、とかく二人とは考えの異なる自分は足手まといになるだけではないのだろうか。

 未熟な娘の口煩い忠告など、迷惑に思われるだけだろう。

――私という存在は彼らにとって、そもそもが必要ない人間なのだ。ならばいっそこのまま……。

 そんな考えが頭をかすめた時、彼女の中にある割り切れぬモノが問いかける。

――そうして逃げるのか。

 ファバは言っていた、『逃げ出してしまっては、俺は一生、俺の事を許せなくなる』と。

 自分は果たしてどうだろうか。

――彼らのもとに戻らぬ理由付けなどいくらでも出来る。だがそうしてあの二人のもとを離れ、知らぬ顔で生きていく自分を、この先私は許していけるのだろうか。……わかりきった事だな。

 鼻で笑い立ち上がると、一つの決意を胸にカムは寝台の上へと横たわる。

 そして彼女は気付くのだ、同じ寝台であってあれほど感じていた寝苦しさがまるで嘘のように消えて無くなってしまっている事に。

――今度はよく眠れそうだ。

 その心地良き眠気に抗う事なく、カムはゆっくりと眼を閉じた。

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