第405話

「あなたまだこんな所にいたの?」

 レグスとの再会にセセリナは小さな驚きと呆れを抱く。

 せっかく戦いに巻き込まれないよう念話を使い避難を命じていたのに、こんな近くから様子を窺っていたのでは注意を促がした意味がない。

 他人の言葉を素直に聞くような男でない事はわかっていたが、彼女はつくづくそれを実感する。

 この場で文句の一つ、二つ言ってやりたいところだがそんな暇もない。

 レグスの方へと近寄ると、セセリナは険しい調子で言った。

「見ての通りよ。もう打つ手なしよ。さっさと逃げるわよ」

 そう言って場を離れようとする精霊だったがレグスは動かない。

「何をしているの。あれはもう止められやしないわ。ここを離れてファバ達と合流するのよ」

 怪訝な面持ちを浮かべる青き精霊の少女に、黒剣を手にする男は言う。

「それは出来ない」

 想定外の返答にセセリナは戸惑った。

「何を言ってるの……?」

「あれをこのまま放っておけば、想像もつかぬほどの犠牲が出るだろう」

 そんなことはセセリナも百も承知している事。言われるまでもない。

 だが、いったいどうするというのだ。

 精霊の術を受けてなお致命に至るに程遠きあの炎の巨躯に、誰が立ち向かえるというのか。

「まさか……、あなたがイファートを止めると言うの?」

「他に手は無さそうだからな」

「馬鹿を言わないで伝えたはずよ、あれは古き神だと。見ていたはずでしょう、炎の巨神がどれほどの力を有しているか」

「ああ、十分と見ていた」

「だったらわかるはずでしょ!! 不浄の王などと比べようもないほどの存在だと、とても人が敵う相手ではない事は!!」

 炎の巨神を相手に、人の身では攻撃を浴びせるどころか近付く事すら困難極まる。

 レグスとてその事は理解している。

「だからこそ、お前の力を借りたい。セセリナ」

 古き精霊だけが唯一多少なりとも古き神の力に抗えていた。

 彼女の協力があれば神と呼ばれる存在と自分も戦えるかもしれない、レグスはそう考えていた。

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