第391話

 彼らの故郷は死にゆく土地。

 だからこそ彼ら枯れ森のエルフ達は生き残る為、この決死の戦いを挑んだのだ。

「一度森へと戻り、態勢を立て直しましょう!! シュドゥラ様の計画にあったようにゾブル高原の奴らを始めとして、蛮人共と手を組み直せば、……次こそは必ず!!」

「次だと!? そんなものあるか!! むしろ奴らはこの機に我らの森へと攻め入り、殺し、奪い、焼き払うだろう!! 蛮人共はもとより、壁の奴らもこのまま黙ってはいまい!! 新たな連合の結成など、全てはこの戦いでの勝利あってのものだったのだ!!」

 次はない。

 次などあろうはずもない。

 絶対に勝たねばならぬ戦いだった。

「なのに!! 奴が……、奴が全てを!!」

 燃ゆる巨体を睨み、失意の怒りをぶつけるようにシュドゥラは叫ぶ。

「何故だ!! 何故お前が、大地の太陽の眷属である者が奴らの味方をする!! お前を、お前達を、この大陸より追いやったのは他ならぬ傲慢なユピアの神々とその信奉者達であろう!! お前達を忘却の彼方へと葬ったのは、壁の先に住まう人の子らであろう!!」

 あらん限りの大声でダークエルフの長は叫び続ける。

「この戦いは、お前達にとっても望むべきものであろう!! 偽神を祀る西の地を辱め、蹂躙するは、奴らに辛酸を嘗めさせられた全ての者達の悲願であろう!!」

 体裁など捨て去り、心のままに彼はただ叫び続ける。

「私は覚えているぞ、お前の名を!! 人が忘れし名を!! 私は知っているぞ!! 祖国を滅ぼされたその無念を!! お前達の事を我らは覚えているぞ!! なのに、何故だ!!」

 シュドゥラは叫び、問う。

「答えろ!! 顔のない炎の巨人よ!!」

 声を震わせ、涙を浮かべて彼は問う。

「答えてくれ……、イファートよ……」

 だが彼の神は答えない。

 ひたすらに暴れ、全てを燃やし続ける。

 光臨せし神が蹂躙するのは軍勢だけではない。

 そこに託された、欲望、野望、悲願、希望。

 その全てが炎に呑まれて消えていく。

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