第390話

 戦況の急変は炎の巨神が暴れる城外にとどまらない。

 城内に攻め入った者達もこの一方的な虐殺劇に動揺激しく、恐れを知らぬはずの魔物共が我先にと戦場から逃げ出していくではないか。

 戦場のあちらこちらから角笛の音が響き聞こえた。

 それは退却を知らせる魔物達の角笛の音だった。

 無論、この一戦に全てを賭けていた連合の総指揮官たるシュドゥラが退却の許可など出そうはずもない。

 各魔物の酋長達が勝手に軍を退かし始めたのだ。

 連合軍はもはや統制が取れる状態にはなかった。

 オークもトロルもエルフも、誰もが逃げ惑い、燃え死んでいく。

 壊滅。

 たった一柱の古き神の出現によって、シュドゥラ達枯れ森の民が築き上げた連合軍は完全に瓦解したのである。

「赤耳のロドガ戦死、オノフの子モーガ戦死、トノン山の王オッド戦死、マーダンのトロル隊退却開始、青暗洞窟のゴブリン達も退却を始めたとの事!!」

 凶報がシュドゥラのもとへ続々届く。

 いや、そんなものを聞かずとも、この戦況、誰の目にも明らかだった。

 シュドゥラの部下の一人が明白な事実を叫ぶ。

「シュドゥラ様、我が軍総崩れにございます!!」

 声を震わしながら彼は言葉を続ける。

「もはやこれ以上の戦闘の継続は不可能、我らも退却の号令を!!」

 部下の進言にシュドゥラは声を荒げて問い掛けた。

「退却だと? では教えてくれ!! どこへ逃げるというのだ、我らに、どこに逃げ場があるというのだ!!」

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