第324話

――何故その名があの男から出てくる……。

 トーリの思考が目まぐるしく回転し、脳より記憶を引きずり出し続ける。

――ガルドンモーラ……、ガルドンモーラ……、ガルドンモーラ……。

 黒の怪人について己が知る限りの事を思い出そうと懸命になる老魔術師。

 古く格式高い書に記されていた事柄から、真偽不確かな噂話まで、ありとあらゆる記憶をトーリは必死によみがえらせ続けた。

 そして記憶の迷宮にて手にする一つの光明。

 それは何処より風に乗って伝わってきた出所も不確かな噂話。

 ロレンシアの英雄王ラルファンが背丈の低い老いた黒武人と極々短い一時期、懇意にしていたという噂話で、その黒武人の老人こそが黒の怪人ガルドンモーラではないかというものだ。

――英雄王ラルファン……。

 妙にひっかかる。

 数あるガルドンモーラについての記憶の中で、この眉唾物の噂話に、トーリの直感が何かあると告げている。

――何だ……。

 英雄王ラルファンはロレンシア史上もっとも偉大な王であったが、教会主導のもと連合が成される前に、アンヘイの狂王との戦いに挑み、敗れ、戦死している。

 すでにこの世を去った男との噂話にどうしてこれほどまでに心がざわつくのか。

――何を見落としている……。

 一度ガルドンモーラより離れ、ラルファンに思考の対象を切り替えるトーリ。

 彼が治めた王国ロレンシア、彼が娶った妻、彼が育てた一人娘。

――一人娘……、蒼い花の女王リーシェ……。

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