第320話

「レグス!!」

 宙を飛びながら二人のもとへやってきたのは青き霊体を持つ少女であった。

 レグスの異変に気付き慌て駆けつけた彼女の姿を見てトーリは驚いた。

 そして彼女の霊体より溢れ出る不思議な力を感じ取りながら、老魔術師は二つの事を思い出す。

 一つは、その力がこの戦場でときおり感じられた異質な力と同じ類いのモノであった事。もう一つは、戦いの直前に壁の民達が交わしていた会話の事だった。

 その者達曰く、この戦いには偉大な精霊様が助力してくれるのだという。

――この娘が、あやつらが言っていた精霊か!!

 なんと立派な霊体であろう。

 間近で見て、その力を感じ取るだけで、格の高い精霊である事が直感的に理解出来た。

 それに加えて、基本精霊というのは人を嫌うとされているのだが、どうもこの精霊は様子が違うらしい。

 老魔術師の目の前で邪剣の魔に侵され正気を失っていた男の体調を心配し、力を使った事を咎め、ずいぶん親しそうにあれやこれやと会話しているではないか。

 驚きの連続だった。

 目の前の男が邪剣を手にしている事も、精霊の仲間がいた事も、ちょっとやそっとの出来事ではない。

 そして、その驚きや付随する疑問の山を押し退けて、前面に飛び出してくる一つの根本的な疑問。

「恐ろしき魔剣を振るうだけでなく、これほどの精霊までも連れておるとは……、お前さんはいったい何者だ?」

 率直な老魔術師の問いに、男は短く返答するのみであった。

「……さぁな」

 その言葉を残し、彼は精霊を連れ添いながら再び戦いへと戻っていく。

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