第302話

 そのような強力な戦力をシュドゥラは何故温存していたのか。

 それは彼が枯れ森の民を率いる長として、この城攻めの後の事をも考えていたからだ。

 今壁の民の城を攻め立てている魔物の大軍勢は決して一枚岩ではない。

 魔物共は異なる主を崇める眷族達と反目し合うどころか、同じ主を崇める眷族同士でも争いごとなど日常茶飯事。枯れ森に住まい天の神々を信仰せぬとはいっても、シュドゥラ達エルフが魔物の軍勢を仕切る事に関して、面白く思っていない連中はごまんといた。

 そのような者達の不満を、今は各魔物の指導者達が抑えつけてはいるものの、いつそれが爆発するかわかったものではない。

 それに加えて、城攻めを成功させ一段落がついた後に、用済みとばかりに魔物達が結託して、軍勢より枯れ森のエルフ達を排除しようと襲ってくる可能性も十分に考えられる。

 だからこそ、牽制の意味を込めてダークエルフ達は戦力を出来るだけ温存しておかなければならなかったのだ。

 しかし、そのような事も言っていられなくなってきてしまった。

 城を守る者達の抵抗は想像以上に頑強で激しく、用意した攻城塔を使った攻撃もなかなか上手くいかないばかりか、安全な後方に配備されていたはずの投石機までもが全て破壊されてしまっている。

 このまま魔物共の数に任せて押し切る戦術でも、城を落とせる可能性は十分とあるのだが……、そうなると被る痛手も相応に大きくなるだろう。

 薄汚い魔物共が壁の民達に何匹殺されようと、心情面では何ら痛むモノはないシュドゥラではあったが、戦力としてそれを失うのは看過出来ない。

 戦いはこの一戦だけではない。

 城を攻略した後に、救援に駆けつけてくるであろう壁の民の軍勢をも相手せねばならないのだ。

 それを負かさねば、何の為に苦労して城を落としたのかわからぬ。

 この城攻めだけで闇雲に戦力を浪費するわけにはいかない。

 となれば、早急に落城せしめる為にも、シュドゥラは貴重な戦力たる煉撰隊の投入を決断せざるを得なかった。

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