第300話
束の間の後、精霊の助力を得た鷹が不思議に吹く風に乗り城外へと飛び出す。
その鋭さ、この夜空に比類する者なし。
切り裂くようにして怪鳥達の群れの間を抜くと、ライセンは瞬く間に敵の投石機へと迫った。
投石機の傍には、魔法障壁の裏側で悠々と大岩を込める作業を行うミノタウロスの姿があった。
自身と比べ物にならぬほどの巨体を持つ牛顔の魔物を前にして、ライセンは勇猛果敢に襲い掛かる。
突如飛来した鷹の攻撃を受けたミノタウロスは慌てふためき、追い払おうと大きな手と腕をブンブンと振り回すが、機敏に舞う空の戦士を捉える事は出来ない。
そして大振りに空振ったその隙をつき、ライセンは鉤爪を立ててミノタウロスの目玉をえぐった。
頑強な肉体を持つ牛の巨人とて目玉は鍛えようがない。
たまらず悲鳴を上げて崩れ落ちるミノタウロス。その方向はなんと投石機の方であった。
大岩を飛ばすように設計された立派な兵器も、さすがにミノタウロスの巨体を支えられるようには造られていない。
牛の巨人に圧し掛かられた投石機が軋み音をあげたかと思うと、あっと言う間に折れ、崩れ落ちていく。
その様を、魔法障壁を張る枯れ森のエルフの魔術師達は唖然と見ているしかなかった。
まずは一機。
敵の投石機を見事破壊してみせた鷹は最後に残った投石機にもその鋭い爪を突き立てる。
投石機に使用されている大縄をずたずたに切り裂いていくライセン。
その電光石火の早業には誰もついていけない。
「大技など使えんぞ。投石機にも攻撃が当たってしまう」
「矢だ!! 急いで弓兵を呼べ!! あの鷹を射殺すのだ!!」
混乱し慌てるエルフ達の目の前で、あれよあれよと言う間に、最後の一機も使い物にならない姿へと変貌してしまう。
そして二機の投石機を破壊し終えると、鷹は優雅に夜空を旋回し、城の方へと帰っていくのであった。
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