第286話

「本当の悲劇とは絶望の淵で無気力に死んでいく事だ。戦えるはずの者が、戦えず死んでいく事だ。覚悟のある者が、それを示せず死んでいく事だ。お前はファバにその恥辱を抱いて死ねと言うのか」

 レグスも安易に無謀な戦いを推奨しているわけではない。彼には彼の考え方があった。

 それが安っぽいものではない事をカムは感じ取りながらも、それでもここでファバを戦わす事が正しいのだとは、彼女には思えなかった。

「私達が戦いに勝てばいい事だ」

 何の保証もない展望を語る女にレグスは言う。

「根拠のない夢想を語り、人を惑わすなど、お前の言う悲劇の高尚化といったいどちらがより愚かであろうな」

「命を軽んじるな」

「俺が命を軽んじているのではなく、お前がファバの魂を軽んじているのだ」

「この戦いがそれほどのものだと言うのか? 年端も行かぬ者がその未来を、大いなる可能性を懸けるに値するほどのものだと、お前は言うのか?」

「それを決めるのは俺ではない。ファバ自身だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る