第258話

 城より放たれたいくつもの矢。その降り注ぐ矢の雨に備え剣を構えるレグス。

 彼は正面から飛んでくる矢を己の黒き剣で打ち払うつもりであった。

 しかし、それは杞憂に終わる。

 矢は見事、レグスとその馬を避け、背後の魔狼のもとにのみ降り注いだのだ。

 レグスの馬に迫った魔狼達は次々と矢の雨に射抜かれ、脱落していく。

 レグスとその馬には一矢とてかすりもしていない。

「あやつらは精鋭中の精鋭だ。この程度の事を仕損じはせん」

 目の当たりにした出来事に驚く少年に声を掛ける一人の大男。

 彼は困惑し自分を見つめる少年を見て、至極当たり前の事を察する。

「そうか、言葉がわからぬか。……まぁよい」

 視線を少年より外し、城外へと目をやりながら大男は呟いた。

「しかしあの男、まだ生きておったのか」

 目を細め、レグスの姿を見つめるこの男の正体、それは壁の民の勇者ガァガであった。

 彼は驚いた。決闘を終えた時、あの時、確かに男は瀕死の重傷を負っていたはずだ。

 それがどうだ。

 混沌極まる決闘場より脱するばかりでなく、馬に跨り、剣を振るっている。

 まるでブノーブとの死闘が無かったかのように。

 何らかの特別な術を用い治療を施したにせよ、尋常の事ではない。

「まさか、あの男にも星の加護があるとでもいうのか……」

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