第246話

 切迫した状況の中で、巨壁の内では魔物の大軍を目にしたルルが、王にこの事態を知らせるようクルクに命じていた。

「急げ」

「だが……」

 しかし、大軍迫る中、このような場所に友を一人残していく事に抵抗感を覚えるクルク。

「急げ!!」

 それでも決死の命に、無理矢理にでも未練を断ち彼女は駆け出す。

「もはや今さら手遅れだ」

 クルクの後姿を眺めながらダークエルフの男が言った。

「黙れ、腐れエルフ!! お前達の醜き野望を阻止し、我らはフリアの地を必ずや守ってみせる!!」

 危険を顧みず一人この場へ残った壁の民の大女は、臆する事なく敵へと斬りかかっていく。

「くくっ、守るだと?」

 大女の大剣の乱舞を全て受けきりながらダークエルフが笑う。

「何がおかしい!!」

「お前達、壁の民はフリアの地を守ると言うが、何を以って守ったとするのだ。あの地に住まう者達は戦争ばかりしているぞ」

「壁の内の争いごとについては、我ら壁の守護者の関するところではない」

「都合のいい話だ。壁に内も外も無かろうに」

「馬鹿を言え」

「変わらぬさ。壁の東も西もな。フリアに住まう者も、灰の地に住まう者も、同じように争い続けている」

「我ら人を、汚れたお前達と同じにするな」

「我ら? 肌の色も瞳の色も髪の色も違うに止まらず、星すら見れぬ巨人の成り損ない共が今だ人間を気取り続けるか。……滑稽だな。だがお似合いだ、正義の守護者ごっこを飽きもせず続けてきた、哀れなお前達にはな!!」

「我らの崇高な戦いを貴様ら如きが愚弄するな!!」

「崇高な戦いだと? まさしく、まさしくそれだ!! お前達が守ろうとしているものはフリアの地などではない!! その欺瞞だ!!」

 怒りと憎悪を込めダークエルフの男は言う。

「いったいいつまで偽り続ける。いったいいつまで騙し続ける。目を開け、愚かな灰色の民よ。フリアの地はとうの昔に、血に塗れているぞ!!」

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