第230話

「ベベブ、貴様、謀ったな!!」

 騒ぎ始めた観衆の様子に気色ばみ、元老院議員ベベブへと詰め寄るガァガ。

 彼にはこの騒ぎが自然に発生したものだとは思えなかったのだ。

「人聞きの悪い事を言うな。何の根拠あってそのような事を」

 シラを切ろうとするベベブ。そんな彼に対してガァガは一つの事実を突きつける。

「あの男はググの子ドルドであろう。貴様が近頃、ひどく懇意していた男だ!!」

「それがどうした。私は議員の務めとして、日頃より民の声に耳を傾けている。交流のある人間などごまんといるぞ。偶然そうなる事もあろう」

「偶然だと? 賛同の声を上げていった奴らの顔にも、私は覚えがあるぞ!! これが偶然なものか!!」

「この決闘を不満に思う者達がそれだけ大勢いたという事だ。……見ろ!! そして、聞け!!」

 ベベブが腕を広げ、貴賓席より観衆達を見やる。

「ガァガ、貴様にも聞こえるだろう!! これが私と同じく、我が民族を愛し憂う者達の声だ!! 不当なる英雄の死に打ち震える、この魂の慟哭こそが答えに他ならない!!」

 観衆達が叫んでいる。

「死を、死を、死を!!」

 勝利したはずの異人の男の死を望み、叫び続けている。

 彼らはそれが正しい事だと、なされるべき事だと主張しているのだ。

 その異様な光景に、ガァガは言葉を失った。

 彼には信じられなかった。

 これが誇り高い、戦いの民である者達の姿だというのか。戦いの日々に身を置きながらも、理性を重んじる者達の姿だというのか。

 彼には、人々が正気を失ってしまっているとしか思えなかった。

「陛下!!」

 ガァガが振り返り叫ぶ。

「これ以上騒ぎが大きくなる前に、陛下の御威光を以って収拾をつけねば、手遅れになりかねます!! 急ぎ、勝者の名告げを!!」

 彼の鬼気迫る訴え、だがしかし……。

 ゴルゴーラ王は、険しい顔付きのまま動く事はなかった。

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