第214話
「聞け、彼らのこの声を」
観衆の大声援を浴びながら、戦士ブノーブは祭服の男を挟んで並び立つ対戦者レグスに言う。
「天の神々が、これをぞんざいに扱う事がありえようか。既に正義は示されたも同然」
「声の大きさで真の正義が決まると言うのなら、露天商でも連れてくればよかったな。さぞ役立つ事だろう」
昂る思いのまま口にした戦士の言葉を、レグスは動じる事もなく切り捨てる。
「貴様……」
今にも襲いかからんばかりのブノーブの表情に、祭服の男が注意を促がす。
「ブノーブよせ。これは神聖なる決闘ぞ。私情を露わに、汚すような真似は止めよ」
そしてレグスの方にも厳しい視線を向けて言う。
「……お前もだ」
両者に注意を発した後、彼は改めてブノーブに声をかける。
「そろそろ始めるが、心の準備は出来ておるか」
「無論」
「よろしい。……お前もよいな」
レグスにも確認をとる祭服の男。
「ああ」
二人の闘士が十分と心構えが出来ているのを確認した男は、同胞の戦士の名を叫び続ける観衆に向かって手をかざし声高に発する。
「闘士ブノーブ!! 咎人の断罪を求む、汝の心に偽りも疾しさも無いと誓えるのならば、己の剣を手に位置へと付くがよい」
祭服の男の発言に従い、ブノーブは台に乗せられた大剣を取り、決闘を始める位置へとつく。
「闘士ゲッカ!! 咎人の潔白を訴える、汝の心に偽りも疚しさも無いと誓えるのならば、己の剣を手に位置へと付くがよい」
レグスも台へと向かい、決闘に使用する武器を確認する。
そこに置かれていたのは、古代人達の成れの果て『巨大な竜の亡霊』をも斬り裂いた黒き剣。
しかしその色は、あの戦いの時に力を発しすぎたせいか幾分か落ちてしまっている。それでもやはり、黒き剣の持つ迫力は凄まじい。
そして、レグスに用意された武器はこの慣れ親しんだ剣だけではなかった。
これといった特徴のないありきたりな短剣が十本も置かれており、彼はそれを全てローブの内へとしまうと、ブノーブと向き合う位置へと移動した。
レグスとブノーブの両者が位置についたのを確認した祭服の男は貴賓席を一瞥した後、両手を天に掲げる。
そして空を仰ぎ見ながら彼は叫んだ。
「天界に御座す公正と断罪の神、ローバル神よ!! 汝の信徒たる咎人マルフスに罪のあるや否や、天意無き者の血によってその意を示し給え!! ……始めい!!」
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