第213話

「その点は心配する事無かろう。彼らは誇り高き民、神聖なる決闘の結果を無下にするような真似はしまい」

 開拓団のまとめ役であるシドよりも一回り以上年は上であろう老人が言う。

 彼の名はトーリ。

 長くロブエル・ローガに仕えてきたこの男は、シドと並び、ロブエルが絶大の信頼を寄せている数少ない人物であり、特徴的な丸く茶色い大きな目と鼻筋が曲がって突き出た鼻を持ち、その顔立ちから『鷲鼻の梟トーリ』と呼ばれ、ミドルフリアでは広く名の知られるほどの魔術師であった。

 魔術師としての技量もさることながら、賢智の人として多くの策と助言を与える事で、ロブエルを王国の大臣職にまで押し上げたという一面を持っており、魔術師の世界だけでなく、ベルフェンの政界においても彼の名は大きな影響力を持っていた。

 ベルティーナ達に様々な知識と魔術を教えたのもこの老人である。

 これまで彼はマシューという男と共にベルフェンの王都からこの地まで、世話と警護を兼ねて囚われの身の主の傍におり、シド達とは別行動を取っていたのだが、つい先日、無事合流を果たしていた。

 しかし、肝心のロブエルの身は、先に灰の地へと発ったベルフェンの開拓団から壁の民へと引き渡されており、油断ならぬ事態が続いている。

 もしもの時には、トーリの強力な魔術が壁の民に向けられる事になるやもしれなかった。

「……さてどうだかね。その誇りとやらが、存外頼りにならねぇ事は、嫌という程思い知ってるんでね」

 老魔術師の言葉を易々と肯定する事はディオンには出来なかった。

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