第203話

「まぁ、さすがは精霊さんね。初対面で言い当てられたのは二百年ぶりぐらいかしら」

「影の世界の魔女が、このエンテラの地に何の用があるって言うの? 何を企んでいるのかしら」

「企む? ひどいわ。私はただこの世界が気に入っているだけ。あなたも同じでしょ?」

「汚らわしい魔女と一緒にされたくないわね」

「あんまりな言い方ね。差別よ、偏見よ。か弱い乙女のハートが傷ついてしまったわ」

 乙女と呼ぶにはグロアの容姿は扇情的すぎた。人として見れば、最低でも二十代後半にはなる外見であり、とてもではないが乙女とは呼べない。

 もとより、この魔女は彼女の言をして、数百年は生きている事になる。か弱いはずもない。

「つまらない芝居はやめろ」

 レグスが一切の同情心もなく、魔女に言った。

「冷たいのねぇ」

 魔女が声色を変える。

「私は、『お前』の数少ない理解者だというのに」

「理解者だと? 笑わせるな。お前に人の心など理解出来まい」

「アハハハ、人? あの狂王の堕とし仔が、人間を気取るの?」

「黙れ」

「お前は私と同じ世界の住人よ」

「黙れ」

 レグスが腹を立てるほど、魔女は嬉しそうに語るのをやめない。

「聞いたわ、明日の決闘裁判、相手は壁の民の戦士だそうね、それもとっておきの。……勇敢に戦い、同胞を救い、正義を知る、立派な大男」

 魔女が邪悪な笑みを浮かべる。

「お前はそんな男を、天界の神々の名を語り欺いて、殺そうとしている」

「黙れ」

「己のエゴの為に、罪も無き無垢の民を手にかけようとしている」

「黙れと言っている」

「似ているわね、そういう所。……あなたの父親そっくりよ」

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