第201話
互いが互いの言葉を待ち、静かな時間が過ぎていく。
淀んだ空気の中、先に口を開いたのはレグスだった。
「……星の導を探せ、それ無しには旅は続けられない」
「何よ、それ」
顔をしかめるセセリナ。
「指輪の中で見守るお前も聞いていたはずだが、覚えていないのか?」
「いつの話よ」
「俺がガキの頃、何回目かの誕生日を迎えた日の事だ」
「生憎、前にも説明したけど盟約を果たすまで、私は寝てる時間のが長いぐらいだったから、あなたの身に起こった出来事を一から百まで知ってるわけではないし、覚えているわけでもないの」
霊力を少しでも高める為にセセリナは多くの時を指輪の中で眠って過ごしてきた。レグスが呟いた言葉が何を意味するのか、彼女にはわからなかった。
「そうか……。その日は俺の誕生日だった。王族の記念日ともなると無駄に盛大なものだが、数ある余興の一つとして王都で評判の占い師達が何人か呼ばれた……」
古い記憶を思い出しながらレグスは語る。
五、六人はいたであろう占い師達が次々と幼き日のレグスを占っていく。その結果、占い師達の口から発せられる言葉は、いずれも似たようなものばかりで、つまりはどれも王族としての明るい見通しを示しながら、少々警告の込められた抽象的な物言いをするだけのひどく退屈なもの。
それが四回も五回も続いていく。このまま終わったのなら、この出来事自体も忘却の彼方へと追い遣られていた事だろう。
しかし、そうはならなかった。最後の一人となった老婆が、他のつまらない占い師達とは違っていたからだ。
彼女は何処から王都へと来たのかもわからぬ流れ者であり、皺枯れた声で話す不気味な女だった。
されど、その不気味さが人を惹きこむ不思議な力を持っており、自然と耳を傾けずにはいられなくなるのだ。
彼女の占いは、他の者達以上に抽象的であり具体性に欠けていたが、もっとも特異だったのはその短さである。
幼いレグスを一目見て、彼女はたった一言『星の導を探しなされ、それ無しには旅は続くまいて……』とだけ発し、後は無言を貫いた。
その意味のわからぬたった一言が、他の占いよりもずっと印象深くレグスの内に残っていたのだ。
「あの罪人の言葉を聞いた時、その事が頭を過ぎった」
「まさか本気で占いなんて信じて、あんな無茶をしたって言うの?」
「信じた……、さぁどうだかな」
「呆れた。だいたい占いなんて適当な言葉並べて、そのうち当たるように出来てるのよ。そんなくだらないものを当てにするなんて、どうかしてるわ。あなたらしくもない」
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