第198話
「……人には生まれた持った器がある。それは大きさも形も様々だが、同じ物など一つとして存在しない」
声を震わし、目に涙を浮かべる少年にカムは言い聞かせるように語る。
「お前の持つ器と、あの男の持つ器も、やはり違うのだ。人は同じモノにはなれない。どれほど強く焦がれようと、他人と同じにはなれやしないのだ」
「諦めろってのか? 俺のは小っせぇ器だから、縮こまって生きてけってのかよ!!」
少年の言葉をカムは優しく否定する。
「そうではない。器の大小の問題ではないのだ。小さな器が、大きな器よりも劣る謂れなどない。丸い器が、四角い器より劣っているか?」
「何が言いたいんだよ」
「問題はその器に何を入れようとするかだ。あの男が収めているモノを無理に入れようとしたところで、入るはずもないのだ」
「じゃあ、どうしろってんだ。俺は強くなりてぇんだ!! 強く……」
「あの男を見すぎるな。まずお前がすべき事は、己を見つめなおす事だ。自分という人間を知れ。長所も短所も、何に喜び、何に怒り、何に悲しむのか。人を知れ、世界を知れ、そうすればやがて見えてくるはずだ、己の器というものが。……お前には、お前に相応しいモノがある。あの男の真似事なんかではなく、お前にしか手にする事が出来ないモノが必ずある」
「そんなものありゃしねぇよ。あるってんのなら教えてくれよ。俺にしか手に出来ないモノってやつをよぉ!!」
「それを見つけるのは、お前自身の役目だ」
「誤魔化すんじゃねぇ!!」
「誤魔化しなどではない。お前だけがお前の器を知れる。そしてお前だけがそこに収めるべきモノを見つける事が出来るのだ。……まずは己の器を知れ、それが大人になるという事でもある。……お前はまだ子供なのだ」
「……えらそうに言うあんたはどうなんだ? あんたは見つけたのかよ。自分にしか手に出来ないって、ご大層なモンをよ」
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