第197話
「お前は、あの男のようになりたいのか?」
「なりてぇ。なれるもんならなりてぇよ。けど、このザマだ。ちんぴらの一人ものせやしねぇ。こんなんじゃ、いつまで経っても奴みたいに強くなんかなれねぇ」
少年の声は震えている。
「お前はまだ子供だ。これからゆっくりと力を付けていけばいい。そうすればお前が望む力も、いずれは……」
「あと何年だ。何年すれば、俺はそうなれる。奴に近づける? 旅を一緒に始めてここに来るまでの間に弓の使い方を学んだ。馬にも乗れるようになった。けどそんなんじゃ、全然近付いた気がしねぇ。想像出来ねぇんだよ。奴の強さに近付いていく自分の姿が……、追いつくどころか、どんどん遠くなっていく」
焦りがあった。絶望的なほどの差を感じた。
共に過ごせば、過ごすほど。
日に日に、学べば学ぶほど。
少年の心の隅で、暗い影が囁く。
『自分はレグスのようにはなれない』。
そんな己の心の声に、必死になって耳を閉ざしてきた。
だが……、そんなものは無意味だ。
思い知らされる。
レグスが相談もなしに勝手に罪人を助け、その騒ぎに巻き込まれ、彼の指示を聞く事しか出来ない自分。
思い知らされる。
意地を張ってみたところで精霊の御守りが必要な自分。
思い知らされる。
絡んでくる輩一人、満足に追い払う事も出来ない自分。
思い知らされるのだ。
赤の他人に一方的に心配され、助けられている自分という現実に。
自覚せざるを得ない。
情けない。
情けなくて、……死にたくなる。
それでも。
どれほど惨めだろうと、諦める事など出来ない。
どれほど無様だろうと、認める事など出来ない。
それが出来る程度の性であるなら、もとより、この危険な旅に意地でも付いて行こうなどとは思わなかったろう。
「俺は……、俺は……」
底の底、己の根源から湧き続ける力への渇望と、否応無しに見せ付けられる限界と言う名の壁。
身が千切れそうなほどの激情を、少年は今この時も抱いていた。
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