第94話『呪われた宿命』

「呪われた宿命だと?」

 レグスの問いに、セセリナは思念によって答える。

――石の力よ。あの忌まわしき魔石の力があなたの魂を蝕んでいた。いいえ今も蝕もうとし続けている。

「何故俺を。俺があの男の血を受け継いでいるからか?」

 あの男、かつてフリアの地に血と戦乱を撒いた男。人々に恐れられ、忌み嫌われた男と同じ血が自分の中に流れている事をレグスは知っている。

――違うわ。石が直接あなたを選んだの。器に相応しいと。

「石が俺を器に選ぶ? いったい何の」

――悪しき魔人の器。

 突拍子もない話に聞こえる、がこれを笑う事などレグスには出来ない。彼がこれまで見たモノ、聞いたモノ、経験したモノ、その全てが、精霊の言葉に重みを与えていた。

「魔人? まさか教会の聖典にでてくるあの魔人か」

 レグスが言う教会とはフリアでもっとも信仰されているフリア教の事である。古き神話の時代、このカンヴァス大陸を呑み込もうとした巨大な暗黒の勢力、それを打ち払った救世の神々。天界の十二神。特に自由と自愛の女神フリアを主神として崇める宗教である。フリアという地名もこの女神の名から来ていた。

――イグナヴィア、欲望と卑劣の魔人。そして石はあらたな魔人を生み出そうしている。フリア教の聖典に記されているのは決して夢や幻、御伽噺の類いなどではないの。

 今の時代、このフリアの地で聖典が記すような神々が存在していると本気で信じている人間がどれほどいるだろうか。

 はるか昔に姿を現したという神々の使い達も、今では誰一人その存在を証明出来ずにいる。聖職者達の決まりきった言葉だけではレグスにその存在を納得させる事など出来やしない。

 国が変われば、種族が変われば、神すらも名と姿を変えるという事実が聖典を夢物語に変えてしまったのだろうか。

 だがセセリナは、目の前に現れた古き精霊は、天界の神々の存在を肯定している。

 そこには人間の聖職者が語るものとははっきりと違う、重みがあった。

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