第90話
古き精霊スティアのセセリナは指輪から出現するなり、不機嫌そうな顔を浮かべ言った。
そんな彼女に二人は戸惑う。
自身らの言動に彼女が怒っている事についてではない。彼女のその外見に二人は戸惑っていた。
彼らの前に出現したのは昨夜の宴に素晴らしい踊りを見せた美しい少女などではなく。
「おい、レグス。なんかすげぇ小っちゃいんだが、これがあの精霊なのか!?」
手の平に収まってしまうほどの小さな小さな女の子。
それがふわふわと浮遊しながらしかめっ面を見せている。
「そうらしい」
よく見ればサイズこそ縮んでいるが、顔も着ている服もセセリナのそれだ。
「精霊、精霊ってうるさいわねぇ。ちゃんとセセリナ様って呼びなさいよ、糞ガキ」
「なんかすげぇ口悪くねぇかこのちっこいの……」
ファバがセセリナとまともに話をするのはこれが初めてであった。
「あなたに言われたくないわよ」
浮遊しながらファバの顔の前まで近付くセセリナ。
それにどう対応したらいいのかファバにはわからない。
「勘弁してやってくれセセリナ。もとから礼儀を知らんガキだ」
フォローになってるか怪しいフォローをいれるレグス。
「あら、あなたもお前、お前と随分なものだったけど? それに私が指輪にいる間に好き勝手言ってくれてたのはどこの誰だったかしら?」
責めるような眼差しをレグスへと向けるセセリナ。
「聞こえていたのか」
「当たり前よ。まったく、指輪の事も何もわかってないんだから……、呆れるわ、ほんと」
「それも含めて、いろいろとご教示賜りたいのだが」
「嫌よ、めんどくさい」
完全にへそを曲げてるらしく冷たくあしらうように言い放つセセリナ。
「どうすんだこれ……」
浮遊する小さな精霊を見ながら呆れたようにファバが言った。
「どうするもこうするもないだろう。精霊相手に力ずくともいくまい」
喉から手が出るほど欲しいキングメーカーについての情報、それを持っているかもしれない相手を前にしてる割にレグスの態度はやけに落ち着いている。
その内にどのような思惑を隠しているのか、少年には見えない。
「それに命の恩人に無理強いは出来んさ」
レグスに命の恩人と言われ悪い気はしないらしく。
「本当に感謝なさいよ、私がいなきゃあなたなんてとっくの昔に死んでいたのだから」
さっきまでの冷たい態度はどこへやら、鼻高々に話す精霊。
つい先ほどレグスが言っていた『精霊とは気まぐれなもの』だという事を体現するかのようにころころ変わる彼女の表情は、滑稽に見えるほど子供染みている。
それも特別相手を不快にさせるようなものではないどころか愛らしくすらある。
彼女らが持つ偉大な力や容姿の美しさなどだけでなく、このどこか子供染みた滑稽で愛らしい仕草が 古代人達に親しまれた理由なのかもしれないと、そんな事をレグスは不意に思った。
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