第55話
宙に舞う炎が、闇に潜んでいた魔物の姿を照らす。ここでようやくファバは敵の姿を認識する。
と、同時にそれは動いた。
「くるぞ!!」
繁みからそれは飛び出す。
暗い赤の体毛。鋭い牙、鋭い爪。蛇のような尾に、特徴的な六つの赤い瞳。
魔界に暮らすという巨大な三つ首の番犬ケルベロス、その血を引くとされる魔狼ブラディウルフ。
最初の一匹が大きく口を開き、ファバに向けて飛び掛る。
が、その牙は届かない。レグスの剣が魔物の頭を捉えるのが先であった。
血と肉片を周囲に飛ばしながら絶命する魔物。
「うわぁっ」
初めて目にしたブラディウルフ、そしてそれが目の前で叩き斬られる迫力に、ファバはついたじろいでしまう。
そして怯んだ獲物に魔物達は次々と襲いかかる。
「くそ、なんで俺の方ばっかり!!」
ファバに向かって前から後ろから横からと次々と飛び掛ってくるブラディウルフ。
その全てを叩き斬りながらレグスは言う。
「理解してるからだ、どちらがより喰らい易いかを」
少年を守りながら戦うレグスの背後を取る形でブラディウルフが襲い掛かる。
――危ない!!
内心ファバがそう思った瞬間には、レグスの剣はその魔狼を斬っていた。
まるで背中にも目がついているかのように、レグスの剣に迷いはなく、全方向から襲い掛かる魔物を斬り続ける。
「いったい何匹いるんだよこいつら!! 限がないぜ!!」
今だ消えない魔物の気配に、ファバが言った。
レグスはもう十匹以上は斬り殺しているはずだ。
「限はある。残り半分もいないはずだ」
「ほんとかよ」
星光露の力で得た夜目とこれまでの旅で鍛えられた耳によってレグスは繁みを駆け回る魔狼の数を冷静に判断していた。
そのうえブラディウルフが持つある習性を彼は知っている。
「こいつらの習性でな。狩りの最中、群れの半分ほどが戦えなくとなると一度様子見をしだす、今のようにな」
たしかにさきほどまでと違い、魔物は唸り、周囲を駆け回るだけで襲ってはこない。
「って事は、もう一度あれをしのげば終わりって事か」
「そうなる」
「あれだけ派手に殺ったんだ。このまま逃げてくってのはないのか?」
ファバから見れば魔物とレグスの差は歴然としている。たとえこのまま百匹、千匹と襲い掛かってこようがレグスなら全て倒してしまいそうな、それほどまでの差だ。
「残念だがそれはない。こいつらは生存本能というものが欠けている。食欲を満たす事が奴らの全て、一度狩りを始めたら狙った獲物を喰らうか、群れ事全滅するかだ。そこがただの獣と魔物との差でもある」
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