第48話『青き水晶の首飾り』
翌朝、赤帽子の施設内にある食堂で朝食をとるレグス達。
食事の最中、誰かの気配がする度にファバはどこか忙しない。
「どうした」
レグスの問いにも。
「いや、別に……」
誤魔化すだけ。
「用があるなら済ませておけ」
おおよその見当はレグスにもついている。
「は? なんだよ」
「お前の顔に書いてある」
自分の全てを見透かしているというようなレグスの態度は、ファバを不愉快な気分にさせる。
「勝手に決め付けんな」
「そうか、それならそれで良いんだがな。……食事が済んだらすぐに街をでるぞ」
「えっ、もうかよ」
「この街にこれ以上留まる理由もない。少しでも早くザネイラに向かう」
「けどよ、俺にこいつの使い方教えるってのはどうなるんだよ」
ファバがローブの内に隠したパピーを軽く叩きながら言った。
「道中教えてやろう。どのみちお前が街中で使うには目立ちすぎる代物だ」
「盗まれるようなへまはしねぇよ」
「こそ泥だけが相手ならそうかもしれんな。だが、お前も山猫にいたのならよくわかっているだろう」
殺してでも奪い取る。平気でそういう事が出来る連中が世の中にはわんさかいる。
ファバ自身、そういった人間の集まりに最近までいたのだ。理解出来ないはずがない。
「ちっ」
不満があるのか舌打ちをするファバ。それからは不服そうながらも黙ってもくもくと食事を済ませる。
朝食を食べ終わると予定通り二人はそのまま荷物を手に、施設をあとにしようと受付のある広間までやってくる。
まだ朝早いという事もあって人影はまばら、従業員も暇そうである。
レグス達の存在に気付いたのか、椅子に座ったまま老人が一人、彼らの方をじっと見る。
レグスが老人の方へと近付いていく。
「助力感謝する」
老人の正体、それは昨日レグスの交渉相手であったギルドの人間、ヤーコブという男だった。
「感謝ね……。本当にそう思ってるなら早いとこ出て行ってくれると助かる。わかるだろ?」
東黄人差別の激しいダナの街で、ギルドの人間でもない者にあまりうろちょろされるのもトラブルのもとだとヤーコブは言いたいようだ。
実際昨日面倒事が起こったばかり、その懸念も当然といえる。
「そのつもりだ。このまま街を出る」
「そりゃいい。まぁ、祈るだけならタダだ。旅の無事ぐらいは祈っておいてやろう。あんたには必要ないかもしれんがな」
「祈りもいいが、聞いておきたい事がある」
「なんだ」
「ロゼッタとかいう女の姿が見えないが」
レグスからその名がでた時、ファバはどきりとした。
「あいつに何か用かい」
「昨日いろいろと迷惑をかけたのでな。礼ぐらい言っておきたい」
「残念だが今いるのは泊まりと早番の奴だけだ。あいつは違う」
ヤーコブの告げた事実に、ファバは内心がっかりした。
「そうか残念だ」
「まぁ、時間も時間だ、いつも通りならそろそろ来てもおかしくないが、どうする?」
ヤーコブの問い掛けに一瞬、ファバの方に目をやるレグス。
それに対して何か言おうとする少年であったが、その言葉は途中で詰まり出てくる事はない。
夢の世界ではない現実。ここでは今だに、つまらぬ物がファバのうちにひかかっている。
「いや、いいさ。あんたの方から伝えておいてくれ」
レグスが老人にそう返しても、ファバは何も言わない。言えない。
「ああ、わかったよ」
「行くぞ」
赤帽子をあとにする時、少しだけ名残惜しそうにするファバであったが、どうする事も出来やしない。そのまま二人は街を出る為に北門へと向かった。
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