第40話
「くっくっく、こいつぁ驚いた」
「すげぇ顔だな。いったいどうなってんだそれ」
ファバの顔を見るなり二人が言った。そこには悪意しかありはしない。
「ああ、これか」
ファバは自身の顔を手で撫でながら言う。
「病気さ、ちょっと悪い病でね。おっさん達むやみに俺に近付かない方がいいぜ。俺みたいになりたくないのなら」
男達がぎょっとし後ずさる。
その様が滑稽だったのかファバは馬鹿にしたように笑った。
「ははっ、冗談だ。生まれつきさ。そうびびるなよ」
「てめぇ」
虚仮にされ腹を立てる男達。
「生意気な小僧だ」
「ちょっとむかつくなぁ、こいつ」
座り込んだファバの前に見下ろすような形で立つ二人。
「立てよ、小僧」
「ちょっとお仕置きしてやらんとな」
「嫌だね。なんであんたらに命令されなきゃならねぇんだ。……ガキ一人に無理矢理絡んで、勝手に腹立てて、みっともねぇぜあんたら。用がないなら散れよ。鬱陶しい」
ファバの拒絶と挑発に男達の怒りが頂点に達する。
「てめぇ!!」
「立てこらぁ!!」
一人が怒鳴りながらファバの胸倉を掴み無理矢理立ち上がらせる。
「なっ」
強引に立たされ全く無防備となったファバの腹に。
「ぐっ!!」
男の拳がめり込む。
「おいっ、誰がみっともないだって」
拳の一撃にうずくまるファバの頭を足で押さえながら男は言った。
「ちょっと!! あなた達やめなさい、こんな場所で!!」
さすがにこれだけの事を起こせば周囲も気付く。他の冒険者や受付の女達が騒ぎだし、そのうちの一人、老人にロゼッタ呼ばれた女が男達を止めようと声を上げた。
「黙っときな姉ちゃん、こいつはちょっとした教育よ」
「大丈夫、大丈夫。これから先こいつが困らないようにちょっと躾けてやってるだけだから。無茶はしないって」
悪びれることなく男達は言った。
「何が教育だ!! てめぇみたいな頭の悪そうな面したおっさんに教わる事なんかねぇよ!!」
ファバがそう叫んだ途端、彼の体は宙に浮き、吹っ飛ばされた。
男に蹴り飛ばされたのである。
「ちょっと!!」
女の悲鳴や、男達の戸惑いの声、そしてロゼッタの制止を聞く耳など二人の冒険者は持っていないようで、その悪意は今だ収まる様子はない。
「おい誰か止めろよ」
「あれやばいんじゃないか」
「でも、あいつらクレイグとジャコモだろ。俺は関わり合いたくないぜ」
どうやら二人は悪い意味で有名らしく、他の冒険者達は気後れしてしまっている。
彼らの援軍は期待出来ない、ファバは今、一人で戦うしかなった。
「くそったれが!!」
「なんだそのへなちょこ」
クレイグ達は殴りかかってくる少年の拳を容易くかわし、反撃に一発食らわせる。
その繰り返し。
殴り合いでファバに勝ち目はない。
「ちっきしょう!!」
冷静さを失っていた。
いや、もとより彼はその事の意味を、深刻さを、理解できてなかった。
少年は叫び、己の持つ短剣に手をかけ、抜いた。
剥き出しの刃が男達に向けられる。
「おいおい、小僧」
「まじか、お前」
空気が変わる。
どこか弛んでいた猥雑なものではなく、冷え切り緊張したものへと。
「冗談でしたじゃすまねぇぜ。そいつを抜いたって事はよう!!」
男達も剣を抜く。
「うっ」
目の前の現実、剣を手にする大人の男二人。
彼らの殺意は自分に向けられている。
それを本能が察知してやっと、ファバは今、自分が何をしてしまったのか理解したのだ。
後悔するにはもう遅い。
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