第29話
「ど、毒だと!?」
猛毒という言葉にダーナンは動揺した。
「ああ、即効性の猛毒だ。直に手足が痺れ動かなくなり、口も聞けなくなるだろう」
「ふ、ふざけるな!!」
気力で身体を動かそうとするがダーナンであるが余計にバランスを崩し倒れてしまう。
倒れた大男に近付き、見下ろしながら東黄人は言う。
「よく聞け。このアプラサイの毒は死ぬまでに多少の猶予がある。そして私はその解毒薬を持っている」
「……だから何だってんだ」
自由の利かない体に苦悶の表情を浮かべながらダーナンが言った。
「取引だ。私はお前が持つ情報が欲しい」
「毒なんて使いやがる卑怯者と取引だと? ふざけるな……」
古今東西、毒を使った武器は数多く存在する。だがそれらに好意的な印象を持つ者はそうはいない。
暗殺などに使われる毒の後ろ暗いイメージや、必要以上に苦しめ死をもたらす残酷性、戦いが終わったのちも身体を蝕み続ける恐ろしさ、それら様々な理由によって毒、または毒を使った武器、扱う人間は疎んじられた。
人間とは不思議なものだ。
殺し合いにすらある種の理性や慈悲、正当性を求めるのだから。
「卑怯? まさか盗賊のお前からそんな言葉がでるとはな」
「黙れ。こんな姑息な手を使わねばお前みたいな野郎……くそっ……」
毒の回りが進み、苦痛が大きくなっていくダーナン。
「手遅れになる前につまらぬ意地は捨てろ。それともこのまま地獄へ行くか?」
「信用できねぇ」
「なに?」
「卑怯者の東黄人なんて信用ならねぇ」
「図体に反して狭量な男だ。よく見ろ、これが解毒薬だ」
男が丸薬を一粒取り出しダーナンに見せる。
「それが本当に解毒薬って証拠はどこにある」
「その疑いに何の意味がある。解毒薬が無ければお前はこのまま死ぬだけだ」
「いや、お前は持ってる。薬はな……」
毒のついた武器を扱う場合、万が一の事故に対応する為にその解毒法を確保する事は大切な事だった。男が解毒薬を所持しているという事に怪しむ点はないだろう。
「だが、そいつが本物だっていう保証がねぇ。……先だ、情報が欲しいなら、薬を先によこせ」
ダーナンが疑ったのは男が薬を所持しているかどうかではない。毒武器を使う卑怯な東黄人が果たして素直に解毒薬を渡すだろうかという点が重要だった。
ダーナンには薬の知識がない。丸薬を見せられてそれが自分の毒を解毒する薬なのか判断が出来なかった。先に薬を渡させる、彼にしてみれば当たり前の要求だった。
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