第10話
僕は日本に帰ると、予想通りの変わらない日常が待っていた。期待していたような、生まれ変わった自分を感じることなんてことはもちろんなくて、僕の悩みはむしろ増幅されていたし、しばらくは何もする気が起きなかった。
それでも一年後には新しい恋をしたし、それからかなりの月日が経って、当時のユカリさんと同じくらいの年齢になってみると、ようやくあの情けない頃の自分を客観的に見ることができるようにもなってきた。
今では、あの十日間の旅行にも意味があったように思う。
シベリア鉄道の夜に、感じたあの喜びと苦しさの重みが、少しずつだけど身体の一部になってきている。少なくとも、そんな気持ちになっている。
あれから一度もユカリさんには会えていない。いま彼女はどこで何をしているのだろうか。電車に乗ると、とぎときユカリさんを探してしまうのだ。笑みを浮かべながら、握手を求めてくる彼女のあの優しさに満ちた姿を。
[了]
シベリア鉄道の夜に 川和真之 @kawawamasayuki
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