-VF- ヴァリアブル・フォース

天架

序章-始まりの手紙-

プロローグ 始まり

 VF -Variable Force- ヴァリアブル・フォース。

 汎用人型起動兵器の名称であり、この名称の機体が使われているのは同名のゲーム内である。

 VRMMO。

 初期は簡単なファンタジーものからレースもの、シューティングものなどで溢れかえっていた。VR技術の発達に伴って様々なジャンルのゲームが発売された。

 その内の一つでもあるのがVariable Force。通称VFである。

 開発元はアメリカの「Next Order Company」である。

 NOCは全世界に市場を展開しており、生活日用品,衣料から果ては建設,軍事などその業種も数えきれないほどの企業である。

 その代々取締役などを務めるチャイルズ家の資産は小さな国の国家予算よりもあると言われている。そのNOCの現オーナーであるウィリアム・チャイルズが熱狂的なロボットマニアだったために制作されたゲーム、それがVFである。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 上下前後左右すべてが黒で覆われた世界。いや、厳密にはそこには小さな光点がいくつもきらめいているだけだ。一機の人型起動兵器のスラスター光が強くなる。


 ここが現実ではないことにはいつも驚かされる。目的地は宙域第890区にある第四デブリベルトだ。

 そこには様々な鉱石資源など、とても役に立つものが発見できる宙域になっている。現在の資金現している場所であり、人もあまりいないために穴場となっているのだ。

 現在母艦にしている場所からは中々距離があるが、新装備を作製、装備するためには金や鉱物を稼ぐ必要がある。そのことに関して第四デブリベルトは適していた。第四デブリベルトはその距離からあまり人気の狩場とは言えない。そのため基本的には人がいないのだが、今回は違うようだ。

 散発的にデブリベルトから光の線がはしった。直後、小規模な爆発が起こる。ビーム兵器を使った戦闘が行われている証拠だ。誰かがこの辺鄙なデブリベルトで戦闘を行っているのだろう。

 珍しいこともあるもんだ。

 下部のフロントフットペダルを押し込む力を強くする。


「あれは……《プレセペ》?」


 デブリの間を潜り抜けていくと一機の《プレセペ》を発見した。四角い箱が連なったような印象を受ける外見は、装甲が厚めに設定されているせいだろうか。改良を加えていけばある程度まで戦えるようになっている。

 《プレセペ》は設定上地球連盟軍における最初の量産機である。ゲームを始めたばかりの初心者がまず初めに乗る機体だ。機体の肩には地球連盟軍EOのマークがある。そして武装は半壊した実体盾と光の剣――ビームサーベルのみだ。

 その直後デブリの陰から五機の《アベンジ》が出現。右肩には宇宙移民軍SCのマークと左肩に最近よく見るクランのクランマークが取り付けられている。正確には最近よく交戦しているのをよく見るようになっただ。もともとこのクラン自体はとても有名だ。

 だがそんなクランでもこの宙域で会うとは思わなかった。


「なんなの……!?」


 ある程度の近さに近づき、《プレセペ》の通信回線がオープンになっていたため自動でパイロットの声を拾った。悲鳴に似た女の子の叫びだ。索敵範囲を広げても付近にあの《プレセペ》以外の友軍機はいない。

 しょうがない。

 即座にライフルを構えて操縦グリップに着いている引き金に相当するボタンを素早く二度押しこむ。

 オレの狙い違わず、敵機の構えたライフルにビームが着弾。続けて機体に着弾し爆発。


「何が起きた!?」


 敵機の回線もフルオープンなのか困惑の怒声が聞こえる。相手にはロックされていることすら気づかなかっただろう。いやロックと同時に撃ったため反応できなかったのかもしれない。


「初心者の初期機相手にそっちの初期機とはいえ複数で狩りとはSCの連中はどうなってんだ」


 そう言って守るように《プレセペ》の前に出る。《プレセペ》の武装はサーベルと半壊した盾しかわからないがどちらにせよ初期装備である。対して敵機の《アベンジ》は所々初期の兵装でないものが混ざっている機体ばかりだ。初心者というよりも初級者といった感じか。


「なんだお前は!!」


 初心者狩りを複数人で行うことに対する質問に敵機のパイロットは声を荒げた。プレイヤーを倒した方が階級が上がりやすいのは確かなのだが、彼らのレベルならばHelを狩っていた方がいい。


「質問に質問で返すなよ」


 誰だっていい。そう、どうせここは自由な宇宙だ。こいつらが彼女をなぶり殺しにしようとも関係はない。

 誰も咎めることはできない。だけど気に入らない。

 気に入らないから相手を叩き潰す。それができるのがこのゲームだ。

 初心者を寄ってたかって攻撃しているのは気に食わない。

 だからここでこいつらには消えてもらおう。自分の口元が吊り上るのがわかる。ある意味これも初心者狩りか。数的優位を取られているにもかかわらずオレはさらさら負ける気などなかった。


「潰せ!!」


 複数の敵機が散開し、オレを包囲しようとする動きだ。数的優位の場合の常套手段である包囲殲滅。


「マニュアル通りってか」


 小声で呟いてから背後の《プレセペ》の腕を掴んで背部と脚部のブースターを強く吹かして機体上方に逃れる。初期機に少しばかり武装を強化した程度ではこっちの機体の機動力には到底ついて来れないだろう。そのままいくつかのデブリの間をすり抜け、大きめのデブリの一角に隠れる。


「あんたはここで隠れてるか、逃げてくれ」


 友軍のみに聞こえる回線でオレは《プレセペ》のパイロットに伝える。返事を聞く前に再度ブースターを吹かして敵機が狙える位置に移動する。


「どこ行きやがった。出てきやがれ!」


 敵機の内一機がデブリ目がけてビームライフルを乱射する。そのおかげでレーダーにはしっかりと映っていた。


「まるわかりだ」


 相手は初心者だが多数だ。それにEOに敵対するSCのマーク、ならば容赦などいらない。

 一対一であったとしても容赦などしないけどな。

 デブリの陰から出ると同時にライフルの標準を乱射しているアベンジに固定、発射。少し離れた位置にいるもう一機にもすかさず発射。

 叫び声を上げて、二機ほぼ同時にビームに打ち抜かれ撃墜。


「もらったああ!!」


 オープン回線を切り忘れているのか、大声で敵機が接近。手にはビームサーベルを握っている。

 敵機の大上段からの唐竹割りは悲しいかな、とてもわかりやすい。側面のスラスターを使い機体をずらす。機体の目の前をビームサーベルが上から下へと通り過ぎる。すかさずこちらも腰部にマウントされているビームサーベルを引き抜き反撃。敵機の胴体を斜めに両断する。


「ちくしょおおお!」


 残った一機もデブリの陰から突っ込んできたが、他の機体よりも速度が速い。スラスターなどの機動力関連が強化されているのだろう。

 ビームサーベルで攻撃を受け止める。V粒子により既定の形に固定化されているサーベル同士が衝突、反発して閃光を散らす。そこそこいいビームサーベルを使っているようだ。


「これからは初心者狩りなんてしないこった」


 そう言って頭部バルカンで敵機の頭部カメラを破壊。頭部のメインカメラを破壊されていると基本的には一定時間モニターが暗転する。

 敵が怯んだ瞬間に自機でアベンジを蹴り飛ばす。反動を利用して下がりながらライフルを発射。狙い違わず胴体に命中して敵機は爆散した。


◇◆◇◆◇◆◇◆


 お礼がしたい、とあの場に隠れていたパイロットからの誘いもあったのでオレは目的が済み次第母艦へと帰投していた。

 彼女もこの母艦の所属らしく、帰投の時に様々なことを聞いた。

 このゲームを始めたきっかけは弟さんらしい。

 左胸に張ってある階級は上等兵。まだ駆け出し中の駆け出しだ。


「先ほどはありがとうございました」


 専用ハンガーから出てエントランスにいた女性は腰を折った。ゲーム内だから当たり前なのだがとても美人である。そんな姿を見て人助けとはいいものだ、なんて思ってしまうオレは俗物だろう。


「いやいや、たまたまあの宙域に用事があっただけですよ」


 取りあえず相手がどのような人物かまだわからないため謙遜しておく。

 丁寧な人には丁寧に返す。

 それに相手は初心者だ、もっとこの素晴らしいゲームを楽しんでもらいたいのだ。


「シュンさんは強いんですね」


 褒められたら悪い気はしない。しかも仮想とはいえ美人だ。自然と鼻の下が伸びそうになるのをこらえる。


「あれくらい長くやってればできることですよ。オレはゲームなんてコレしかやってないですしね」


 しかし基本は尉官にでもなれば大体の者ができる程度の動きしかしていない。基本の動きを極めれば強くなるのは道理なのだが。


「そうなんですか……先ほどみたいな戦闘はよくあるんでしょうか」


 先ほどの戦闘とは一対多数という戦闘のことだろうか。それともプレイヤー対プレイヤーのことだろうか。


「そうですね、今回のはちょっと特殊な戦闘ですね。今回襲ってきた連中は最近有名になってきた対人専用のクランのメンバーでしたから」


 オレは先ほどの敵機に描かれたマークを思い出した。


「対人専用?」


「このゲームは二つの勢力に別れて始めることができますよね?」


 ゲームを開始するときプレイヤーは地球連盟Earth Oder,通称EOか、宇宙移民Space Colony,通称SCの二つの勢力どちらに属するかを選ぶことができる。

 属する勢力によりVFに違いが出てくる。SCに所属している機体はかなり有機的な見た目が多く、その武装も個性に富んでいるし、外付け兵装など様々な面で自由だ。一方のEOでは規格が統一された機体が多くあり、その多くの武装がどの機体であっても使用可能である。そのため集団で戦う時などに足並みを揃えやすいがその分個性があまりでなくなっている。


「はい、知っています」


 彼女は特に考えることなく頷く。


「先ほど戦った機体は全てSC、つまり敵対している勢力の機体だったんです」


「だからこちらに攻撃を仕掛けてきたんですね……」


 少し納得といった表所を彼女はした。

 要するに敵対している勢力なのだから攻撃するのは当たり前だし、されるのも当たり前なのだ。なので先ほどの初心者狩りのSCたちに非はない。彼らはただ単に運が悪かっただけだ。


「まぁ滅多にあの宙域で会うことはないはずですけどね……」


 あの第四デブリベルトは制宙権争いをしている場所の近くではあるが、確実にEO側の宙域なのだ。


 その後彼女の質問にいくつか応えると、いい時間になってしまったため互いに別れの挨拶をして、中空の半透明の画面に映るログアウトボタンをタップした。


◇◆◇◆◇◆◇◆


「ご飯よ~」


 ログアウトから若干のタイムラグの後、オレの意識が現実世界で覚醒する。

 ちょうど一階から母親の声が聞こえた。タイミングはばっちりのようだ。

 一階に降り部屋に入ると、すでに妹と弟がすでに席に着いており食事を開始していた。

「お、今日はみぞれ鍋か」


 4月の初めの日曜日を終えようかという日には珍しい鍋が食卓にでていた。


「文句ないでしょ?」


「そらないさ」


 別に鍋が嫌いなわけではない。なにより簡単に作れる料理は主婦の味方だろう。そんな益体もないことを考えて席に着き、おそらく冬場までもう食べることのない鍋を家族で食べる。4月なのに冷えるこんな日には温まる。


「そういや兄ちゃん、新武器できたの?」


 弟のつばさが食後にソファに寝転がっているオレに話しかける。どうやら母さんの手伝いは終わったようだ。


「いやまだ。あとチョイで素材と金がそろう」


 あとほんとに少しの素材でオレの機体に新装備であるビーム兵器が搭載されるのだ。今はどこにでもあるビームライフルと、もともと装備されているアンカーダガー、最近新調したビームサーベルしかない。しかし現在作ろうとしているのは機体の腰部に左右に1門ずつ計2門の大型のビーム砲だ。


「いいなぁ。おれも新兵器つくりてー!」


 そんな羨ましそうな顔をされても何もやってやれない。まぁ最近翼が機体そのものを新調したために金が尽きているのだからしょうがない。


「しばらくは前の機体に積んでいた武装でやるしかないぞ。オレも機体を変えた時はそうだったし」


 ゲーム内通貨はある意味無限にあるのだが、その無限にある金を集めるのがそこそこ骨が折れる。

 ランキング戦などで上位入賞すれば一気に手に入るのだが、そのランキング戦はVF内でも最も熾烈を極めるイベントだ。全世界の腕利きのプレイヤーたちが日々しのぎを削っている。かく言うオレも100位以内に入ったことがある程度だ。最近は新しい機体を作るためにランキング戦をサボっていたため最新ランキングでは100位以内には入っていない。

 オレよりも実力で劣る翼がそんな入賞などできるはずもなく、一般プレイヤーとして日々NPCである敵を狩っては金を少しずつ溜めるしかないのだ。

 ランキング戦の報酬は月の終わりに出る。つまり月初めの今から始めることで上位入賞を一応は狙っていける。

 月終わりに報酬が出るからと言ってその月々にランキング戦を一から行っているわけではない。ランキング戦はイベント開始当時から脈々と続く戦いの上にある。

 現在のランク1位はアメリカ人の首領ドンこと『ルシアス』であり3か月連続で1位を取っている。

 ランク2位はこれまたアメリカ人の『ウィリアム』である。NOC現オーナーであるウィリアムである。彼はこちらにも才能を持っていたらしい。巷では不正が起こっているのではないかと言われているが、彼はそのようなことを最も嫌うため結局噂の域を出ることはない。そもそも不正をするなら1位になっていないと可笑しな話だ。

 ランク3位は日本人である『クズミ』だ。その下にもランキング上位になるだけの腕を持ち合わせた人物がひしめき合う。最上位はまさに魔境である。

 明くる日の朝、オレは目を赤くしながらも学校に登校した。結局朝までVFをしてしまい徹夜となった。だがそのおかげで目標にしていた素材とお金を揃えることができ、兵器の制作依頼を出したところだ。プレイヤーメイドということもあり、かなりお高めの値段だが、その分高性能なので文句はない。これでランキング戦にも本腰を入れて挑むことができる。


 寝不足など嘘のようにオレの足は軽かった。

 下駄箱を開けてその手紙を発見するまでは――――。

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