第22話 兵士、二人出かける

今、私はなぜか魔王の母に連れられどこかへと歩いていた。


「あ、あの、私をどこへと連れて行くのですか?」

「んー……着いてからのお楽しみってことでね」

「はぁ……」


そして先ほどから、何度聞いてもこうはぐらかされていた。

しかたなく、私はその後をただただついて行った。

そのついて行く際、私達が辿ったことない道……いや、これを道といっていいのかわからないがそんな道を連れて行かれた。

……それにここって、地図にも載ってないんじゃないかね


□□□


「さぁ、ここよ」


そう言って、私のほうに振り返り微笑んだ。

そして、あの道と呼べるかも分からない道を歩きつづけ、私が連れてこられた場所とは言うと……


「……な、なんですかここは」

「ここはね、そうね一言で言えばブティックよ。」


そう、ブティック……いわゆる洋装点だった。

……ただ、このブティック、私がよく知っているブティックとは全然違うほどに装飾されていた。

それに、ブティックの店名の横にちっさくだけれど魔王って文字が見えた。

……なにここ、魔王直々の運営店?

いや、この人の運営店の可能性のほうが高いか。


「あ、あのなぜ私を?」

「うーん、私の気分?」

「……はぁ」


それにしてもここ数日、魔王の母を見てやはり……この人は読めない。

けれどそれに悪意というものもなく、ただただ単純に面白いことを面白くやろうとしているだけだろうと感じた。


「……さて、行くわよ」

「……はぁ」


そして、そのまま私は魔王の母に手を引かれそのブティックに入って行った。


□□□


で、そのブティックに入ってから私は……


「うーん、これもいいけどこっちのほうがいいんじゃないかな」

「そうですね。ベルリネア様こちらは?」

「あぁーこっちもいいわぁ」


着せ替え人形にされていた。

このブティックに入って最初に、この魔王の母……いや、私も初めて名前を知ったけれども……ベルリネアさんとこの店の店員に捕まり試着部屋に入れられ、かわるがわる服を着せ替えられた。

ある時は、紅いドレスまたある時は執事服のような黒服……

そして、今に至るまでいろいろな服を着せられた。


「あ、あの……」

「あぁ、そのままでいてね。私、貴方を見たときからこれとかこれ合うんじゃないかなぁとか思ってたの」

「あ、はい」


私が逃げようとしても有無を言わさぬ力で私を押さえつけるので逃げることもままならなかった。

で、現在は何を着せられているかと言うと……


「うーん、やっぱりこれもいいわぁ」

「ですねぇ……見違えましたね。ほんとに男装の麗人ですね」


そう、ベルリネアさん達が言うように男装用の服を着せられていた。

ただ、この服……着てみて分かったのだけれどとても動きやすい。


「どう?男装用の服だからとっても体にはフィットしていると思うけど?」

「あ、はい……とても、動きやすいですね」

「そう?それは良かった。じゃぁ、これにしましょうか」

「えっ?」

「分かりました。この服ですね、他の服はどうしますか?」

「うーん、そうね。それじゃぁあれとそれも」

「分かりました」


私を蚊帳の外にして、服がどんどん購入されていった……


「あっ、その服はそのまま着たままでね」

「あ、はい」


そして、今着ている男装用の服は着たまま、帰ることになった。


□□□


帰り道はあの道とは呼べない道ではなく、普通の街道だった。

……普通に街道からこれるのなら、なんで最初からこっちを使わなかったのだろうか……

その街道を歩いていると、いつも以上に視線を感じた。


「うん、やっぱり皆気になるみたいね。」


ベルリネアさんはそう言った。

私は、普段なれない視線にさらされただただ恥ずかしいだけだった。

私達は、その街道を歩きつづけ、魔王宅へと着いたのであった。

この時、もう日は完全に落ちていた。

私は、それほどまでにこの人に着せ替えられたのかと思っていた。


□□□


「わぁ……なにそれぇ!かっこいい」


私が、魔王宅についてから仲間達と会ったときの第一声がそれだった。

ミーナはそう言って、私の近くまでより隅々まで確認していた。

そして、ベルリネアさんと話し合っていた。


「ふぅむ、服と髪型で変わるもんだなぁ」

「そうだね……」


アッシュと薫はミーナがはしゃぎ終わるの最後まで見てから、私にそう言った。


「あぁ、こんなにも変わるとは私も思ったが……普段とは違う視線だらけで恥かしかったぞ……」

「まっ、そう感じるだろうね……私もあった。」

「そうか……」


それから、私達はいろいろと今日あったことを話し合った。

薫の現在の力とか、ベルリネアさんが買ってきた私の服の感想とか……

それでも、今日はそれなりに充実した日にはなったのだろう……


私はそう思い今日の残りを過ごすのであった。


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