第6話 ヤのつく人たち
石丸組事務所で一人の男がウィスキーのロックを飲んでいた。時刻は午前二時、そろそろ舎弟が今日の分の儲けを持って帰ってくるはずだった。そう思っているとコツコツとノックの音がする。虫の知らせというやつか。
「黒田さん・・・」
「石田!どうしたそのケガは!」
「やられました・・・金とクスリも盗られました」
「どんなヤツに盗られたんだ」
「ガリガリで長身で顔に傷があって・・・」
「顔に傷・・・」
小島次郎だ。黒田は確信した。次郎は黒田の元舎弟だった。しかし、売人をやらせているうちに商品の尋常ではない量の使い込みが発覚したので破門したのだった。
「あの野郎・・・許さねぇ・・・」
お礼参りといこうじゃねぇか。黒田はドスを握りこんだ。
一方次郎の方はというと、とうとうアパートを追い出されたので犬の部屋に身を寄せていた。
「はーついてない・・・」
「俺が渡した金を家賃に使わず全部ヤクにつぎ込んだからだろうが。自業自得だ。」
「ヤク以外に金を掛けたくねぇ」
次郎は煙草に火をつけた。
「見たことない煙草だな。俺にも一本くれ。」
「あいよ」
普通の煙草とは香りが全然違う。というよりこれは
「マリファナか」
「うん。うまいだろう。」
次郎は恍惚の表情でゆっくりと紫煙を吐き出した。
「お前はヤクさえあれば幸せなんだな。羨ましいよ。」
「暴力は殴ってもいい相手を探すのに苦労するからな」
「そこなんだよな。でもドラッグもクスリを探すのに苦労するだろ。」
「売人を殴ればクスリも金も手に入るから割と楽だぞ。」
「おい、それ本当にやったのか」
「ああ。情けねぇ面してやがった。」
「バックのヤクザが黙っちゃおかねぇぞ」
「そのときはそのときだ」
次郎はのんきに煙を輪っかにして遊んでいる。こいつは昔からそうだ。いつ死んでもいいと思っている。そして死に対して妙にあっけらかんとしている。それがいいところなのか悪いところなのか俺には分からない。
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