臆病者の一撃

 頭部が消し飛んだブレインの体は痙攣を繰り返しながら天井の管にぶら下がったまま、地面まで垂れている。

 ブレインの頭部が消えた痕には、オレンジ色の泡が無数に立ち続けている。

 未だにひくつきを繰り返す触手から距離を保ちながら、ユーリーは状況報告と負傷者の回収を急がせる。

 傍らで沈黙したままの『オーガ』を『デメテル』は案じながらも、見守る事しか出来ない。


『司令部へ、こちらユーリー二等准尉、目標の沈黙に成功。死者が1名出た、部下3名も未だに昏睡状態だ、至急救援を頼む』

『こちら司令部、ブレインの沈黙を映像で確認した。すまないが負傷者と動ける者を2人残して「ポンプ」の方の救援へ急いでくれ、『デメテル』が必要だ。さっきの混乱も在って、他の小隊よりも君達が行った方が速い』

了解ヤー、すぐ行く』


 誰を残すべきか、全員の状況を確認しようとユーリーは辺りを見渡す為に振り返った。

 すると、泡立ちと痙攣の止まないブレインの死骸の向こう側、ブロック状にした壁ガラスの様な素材の中に閉じ込められたままの子供達が目に付いた。

 直ぐに助けてやる事が出来ない歯痒さを誤魔化しながらユーリーはウィルと班長に残る指示を出そうとして――違和感を感じた。


『どうした、ユーリー隊長?』


 班長が様子に気づきユーリーに尋ねる。

 食い入るように見つめるユーリーの視線の先――ブレインの頭部痕の泡立ちが、勢いを増していた。


『な、なんなんですかあれ……まさか――』

『総員、集中射撃!』


 ユーリーの掛け声と共に、総員がありったけの銃弾を急速に泡立つ痕へと見舞って行く。

 マズルフラッシュの輝きに合わせて泡が破裂して消え、反動するかのように押し返す勢いで泡が更に噴き返していく。

 濃いオレンジ色の泡が弾けた跡には、消し飛んだ筈の肉片が盛り返している。


『再生出来んの!? ズルすんじゃないわよ!』

『大人しく死んどけよおおお!!』

『くそ、弾が!?』

『エメリ!!』

『あと3秒です!』


 弾切れによって破壊の勢いが弱まるのを嘲笑うかの様に、痙攣を繰り返してブレインの体がゆらりと、崩れていた頭部を修復しながら起き上がっていく。

 荷電粒子砲のチャージが終了する。


『今度は体ごと、吹き飛びします!!』


 エメリの叫びに呼応して『デメテル』が荷電粒子砲を解き放つ。

 頭部が再び飲み込まれ、今度は首から胴へと飲み込もうとする雷光。

 自身の体を守る為に、ブレインの胴からは無数大小様々な触手が盾となり光の中へと溶け、再生された新たな触手が再び溶けて行く。


『そんな悪足掻きしったって!』


 エメリに全力で否定されるブレインの足掻きは確かに荷電粒子砲の勢いを完全に食い止めるには至らず、急速に盛り返し、急激に溶けて行く肉壁の山は数秒程度の時間稼ぎにしかならない。

 ――いいえ、十分よ。

 エメリの胸に言葉と防ぎようの無い強烈な悪寒が過ぎると、それはエメリの視界を掻い潜る容で突如現われた。

 極限までに平面化された一本の鋭利な触手、紙と同等の0.08mmの厚さしかない触手がその見難さを活かして、何時の間にかエメリへと肉薄し彼女の視線を横切り、荷電粒子砲と『デメテル』の脚部を結ぶケーブルへと自らを突き刺し、ガラスの様に砕け散る。

 突き刺され断裂したケーブルから火花が舞い散り、炎を撒き上げた。


『やられた!? でも――っ!』


『デメテル』が延焼による危機をエメリへと知らせるが、エメリは荷電粒子砲を最後まで撃ち尽くそうとする。

『デメテル』がエメリへ内部温度の上昇について警告を上げた。

 しかし、ここで止める訳には行かない。

 もう、これ以上荷電粒子砲を撃てないならば、ここでブレインを仕留め逃す事になる。それだけは避けたい。

『デメテル』内部の温度が急上昇して行き、断線したケーブル近くの左わき腹が徐々に熱を上げて行くのを自覚出来た。

 ――大丈夫、まだ耐えられる!

 荷電粒子砲も残り僅かだ。自分の火傷で済むなら、躊躇う理由は無い。

 マガジンを装填し終えた仲間達の援護射撃も加わり、触手による肉壁が徐々に押され始める。

 後、少しっ――。

 痛みに変わって行く熱さに汗を浮かべながら耐えて行く。

 もう少し、もう少しだけ、この痛みに耐えれば――。


『頑張ってるところ悪いけど、先に道具の方が音を上げた見たいよ?』


 先ほどとは違う、確かなブレインの言葉がエメリの脳裏に響いた。

 不意に聴こえた声に呆気にとられた束の間、『デメテル』が突如動きを止め、バイザーの光が落ちた。

 内部の電源が前触れも無く落ちて行き、エメリの視界が暗闇に包まれる。


『火災により内部装着者の火傷を確認。システムを機能制限し、消火及び人体保護プログラムを作動します』


 装着者のエメリへ機能停止した事実を『デメテル』が告げ、痛みを感じていた左わき腹の患部を包むように医療用の特殊ゲルが『デメテル』から染み出てくる。

 即効性は高いが強く沁みる医療用ゲルに顔をしかめると、暗闇の状態から非常等の明りへと『デメテル』の内部がセーフモードに切り替わる。

 限定的に回復した視界の先には完全復活を果たしたブレインが佇んでいる。


『ごめんなさいね、貴方達が言う所のポンプ――「炉」が無くならない限り、私は幾らでも再生出来るのよ。理由も無しに、私がぶら下がってる訳無いでしょ?』


 束となり図太くなった巨大な触手がエメリ達を吹き飛ばした。




『おいおい、向こうの状況も悪そうだぜ?』

『たっく、聴きたくもないのにベラベラと人の頭の中で騒ぎ立てやがって……丸で餓鬼だな、ブレインの野郎は』

『暢気な事言ってないで、どうすんですか? 絶体絶命ですよ、俺達』


 同時刻、ブレインの部屋上層に位置するポンプ室では12機の『ソルジャー』がブレインを人の胴程に小型化した虫に取り囲まれていた。

 作戦前にトム軍曹の記録映像で知らされていた、ブレインの分身である幼虫の群れだ。

 囲まれた原因を、分隊長であるエイブラムが『ソルジャー』の視線越しで睨みつける。

 オレンジ色に発光し脈動しているポンプの一箇所、ブドウの果実に良く似た場所からは、粘土の高い白液が雫になって垂れ落ち、それが蠢きながらカエルの卵の様に小型のブレインに生まれ変わっていく。


『ああ、やだやだ、気持悪いねえ』

『自分の子供がポンプから産まれるとか、雌雄が無いなんてロマン皆無ですよね』

『だから、使い捨てに出来るんだろうさ』


 この場から使える分の手榴弾や射撃をポンプへ見舞っても、前回の労働蟻と同様に幼虫が身を呈して防ぎ、焼夷手榴弾の燃焼を試みた際は、庇って火達磨になった仲間ごと炎を押し潰された。

 手榴弾の破片や銃撃によってポンプには多少の損傷を与えられたが、亀裂から僅かに液体を滴らせているだけで破壊には至っていない。

 12機の『ソルジャー』達は円陣を組みながら、銃器と『ネネキリマル』を構えるが、幼虫達は自ら襲い掛かってくる気配は無い。

 腹から伸びている尾をサソリの様に突き付けながら威嚇を繰り返している。


『どうだ、ダビット班長? このまま奴らの時間稼ぎに付き合うか。下の連中が全滅するかも知れんが、俺達は10分後に来る救援で助かるかも知れんぞ』


 班長であるダビットが薙刀を下段に構えた状態で、エイブラムのやけくそ気味な冗談を鼻で一蹴する。


『エイブラム、お前さん顔に似合わず優しいんだな? ――却下に決まってんだろ、そんな選択』

『まあ、ここまで来たら最期まで付き合いますよ』


 続くイーニアスの決意に他の隊員達も頷く。


『帰る場所も無い身としては、最期まで一匹でも多く屠ってやります』

『ここで俺達がポンプの破壊に成功すれば、ブレインの再生能力も奪えるし、下の連中も助けられる――やらなきゃ損ですね!』

『駐屯地で留守番してるチビッ子達に情が移っちゃいましてね、あの子らの為にも気張りますよ!』


 覚悟を決めた部下達の一言にエイブラムとダビットは頷き、司令部へと自分達がこれから行う事を伝える。

 12機が何時でもホバリング出来る様に身構えた。


『聴いたな司令部! これより総員で突撃して目標ポンプの破壊を試みる!!』

『司令部、了解。諸君らの英断に敬意を。――――何か、伝えたい事は無いか?』


 ダビットは僅かに言い淀むが迷いを振り切り為に言葉を口にした。


『……大丈夫だ、言いたい事は手紙にしてある』

了解ヤー! 幸運を!!』


 返事を聴き遂げた直後、ダビットが目の前の幼虫を薙刀で下段から切り上げ真っ二つにする。

 その攻撃を皮切りに12機の『ソルジャー』がポンプを目掛けて、幼虫がひしめく眼前へ得物を振るいながら飛び込んでいく。

 銃器を手にしている者は惜し気も無く残り僅かな弾を撃ち尽くして行き、『ネネキリマル』を手にしている者は全力で技を幼虫へと浴びせて行く。

 突き進む蠢く白波の中で、最後尾の『ソルジャー』が横合いから幼虫の尾に胴を貫かれ、2本、5本と増えていく。

 貫かれた『ソルジャー』のヘルメットが内側から血を噴いた。


『マイアー!!』

『隊長すいませんっ、お先に!!』


 血反吐でくぐもった声でマイアーが叫ぶと、残していた最後の手榴弾を引き抜いて後方の幼虫達へ飛び込み、その身諸共吹き飛ばした。

 千切れた『ソルジャー』の右腕が宙に舞うのを構わず、エイブラムは叫ぶ。


『振り返るな!! 進めええええええっ!!』

了解ヤー!!』


 逝った戦友に発破をかけられた兵士達が捨て身での攻撃をより際立たせて行く。

 太刀で幼虫を纏めて屠り、薙刀が複数を一変に貫き撫で切る。

 銃器の弾丸が尽きた者は脚部の格納庫から大型拳銃を取り出し、それさえも尽きた『ソルジャー』は腕部からマチェットかナイフを振るい始める。

 決死隊となって暴風の様に押し進む『ソルジャー』を、取り囲む幼虫達は何の感情も示さずに1人、また1人と、鋭い尾を突き立てて行く。

 突き刺され、進軍が適わなくなった『ソルジャー』も絶命する瞬間まで戦う事を止めはしない。

 滅多刺しにされるか、取っておいた手榴弾で幼虫を巻き込み自爆する部下が1人増える度に、先陣を駆るエイブラムとダビットの攻撃は洗礼されていく。

 部下達の命によって確実に縮められたポンプへの距離。

 この勝機を、逃す手は無い。


『このっ、距離ならあああ!!』

『いっくぜえええ!』


 イーニアスとエイブラムが残していた最後の手榴弾から安全ピンを引き抜くと、ポンプへと全力で投げ込む。

 その距離にしておよそ5m、自分達諸共ポンプを吹き飛ばすには十分だった。

 投擲された手榴弾は確かに標的へと向かい――ポンプの亀裂から染み出ていた白い粘液状の2滴の雫に受止められた。

 左右対称にならんだ雫が幼虫へと容を変えて行きながら、手榴弾を抱えたまま兵隊達へ飛び込んで来る。

 刹那に感じる動きの中、エイブラムが成す術もなく、背後の部下を庇う様に幼虫へ向って体を広げると、後ろから誰かに弾け飛ばされる。

 エイブラムは肩に響く強い衝撃よりも、自分を押し退けて2匹の幼虫に向っていく『ソルジャー』の姿に驚愕した。


『ダビット!? 止せ!!』

『息子に死ぬほど愛してると伝えてくれ!!』


 幼虫体2匹を空中で掴み、両手で握り締めながらダビットはポンプへと咆哮を上げて突き進む。

 掴まれた2匹がダビットの両手を貫き、幼虫の群れが触手でダビットの『ソルジャー』を突き刺していくが、その両手は決して離れず、疾走は決して止まらない。

 血に塗れながらもダビットは笑い続ける。


『臆病者にも意地はあるのさ!!』


 ダビットに掴まれたままの幼虫がポンプに叩き潰され、2つの手榴弾がゼロ距離で爆発した。

 暴炎に身が飲み込まれ消えていくダビットの胸に言葉が過ぎる。

 ――かみさんに、怒られちまうな。

 2つの手榴弾による威力をもろに食らったポンプが砕ける音を立て盛大に破裂した。

 破裂したポンプからはオレンジ色の液体が噴水になって飛び散り、ポンプの発光と脈動が急速に弱まっていく。

 立ち尽くすエイブラム達の足元には爆散した『ソルジャー』の破片が血濡れになって転がり落ちて来た。

 エイブラムが沈黙したまま破片を拾い上げる横で、幼虫達は自分達の敗北を潔く認めたのか一斉に室外へ後退を始め、唯一の出入り口が詰まってしまう。

 生き残った7機の『ソルジャー』は燃え崩れて行くポンプには目もくれずに幼虫の群れへと武器を構えながら振り返った。

 陽炎の様に揺らぐ7つのバイザー光が幼虫達を捕らえる。


『――急ぐぞ。これ以上、仲間を殺されて堪るか』


 分隊長であるエイブラムの一言に合わせて、『ソルジャー』達が狩りを始めた。




「味はどう、美味く焼けたでしょ?」

「うん、上達したね。ちゃんと中まで焼けてるし」

「もうベニーったら、昔の失敗はよしてちょうだい」


 久しぶりに口にする母のクッキーは、ベニーの心を満たしつつもどこか虚しさを感じさせた。

 自分が家にいる。

 母がいる。

 こうして一緒にお茶を楽しんでいる。

 だけど、どこか釈然としない。

 その気になれば簡単に思い出せる気がするのだが、それがどうしようもなく恐ろしい。

 迷いを誤魔化す為にお茶を煽る。独特な葉の香りと甘みが来て、最後に苦味が余韻として残った。


「どうしたの、難しい顔をして? お茶が合わなかったかしら」

「いや、お茶は美味しいよ……ただ……」

「迷っているのね」


 母親の言葉に胸の鼓動が1つ跳ねる。何かを見透かしている母の瞳がベニーに罪悪感を思い出させた。

 顔を背けてしまうベニーとは対照的に母親はベニーの方から顔を逸らさない。


「迷う事は当然よ、貴方は若くて先はまだまだ長いんだもの。だからね、ベニー。そう言う時は自分に納得出来る方を選びなさい」

「……納得? 後悔が無い方じゃなく?」

「そう、納得よ。迷って選んだ選択に、後悔は必ず生まれるものよ。だって選ばなかった方にも、迷うだけの理由があるんですもの。だから、大切にしなさい。その後悔を受け入れるだけの納得を自分が得られるかどうかを」


 母が子へと諭す口調には彼女の人生観が確かに込められていた。


「納得を得られるかどうか……か」


 母の言葉を反芻しながらベニーはクッキーを齧った。

 ――そう言えば、あの時食べた出来立てのクッキーは美味かったな。

 ――あの時。

 ――あの、時?


『っ、はい! えっと……今日助けて、戴いた、お礼です……』


「――あっ」


 無自覚に込み上げて来た少女の言葉に、ベニーは憑き物が落ちた顔をした。

 母親はどこか満足げに紅茶をすする。

 全てを思い出したベニーは、我武者羅にクッキーを口の中へと掻き込み、残っていたお茶も一気に飲み干し、自分の胃袋へと納めると口を腕で拭いながらも立ち上がる。

 ――決意は固めた。


「母さん俺……」

「ええ、行って来なさい。でも、少しだけ残念ね……漸くいい顔をしてくれたのに」


 寂しさを押し殺す母親に笑みに堪えかねて、ベニーは母を強く抱き締めた。

 母親もベニーの背へと細い腕を回す。


「家に来たばかりの頃は、小さな赤ん坊だったのにね……」

「――大好きだよ、母さん。……一度も口で伝えなくて、ごめん」

「私も大好きよ、可愛いベニー。例え血が繋がっていなくても貴方は私の自慢の息子。さあ、もう行きなさい」


 母と息子が名残惜しくもその手を離す。

 消えて行く母の笑顔を見送りながら、ベニーの夢が覚める。




 触手に吹き飛ばされ、壁に叩きつけられたユーリー達をブレインが甲高い声で嘲笑う。

 痛みと衝撃による損傷をスーツ側が装着者達へ警告を繰り返す中、ベルサとミレーユが動力切れになった『フリッグ』ごと吊るし上げられていた。

 バリア越しとはいえ、何度も触手を叩き付けられた衝撃で気を失っている2人をブレインは壊れたおもちゃの様に不満を零す


『あら、バリアってもう切れちゃったの? なんだ、案外脆いのね』

『クソがぁっ!! その2人から手を離しやがれ!!』


 叩きつけられた際に衝撃で右足が在らぬ方向へ向かっている班長機の『モノノフ』がブレインの頭部へ腕を掲げ、ナイフを撃ち出す。

 一直線に頭部目掛けて飛ぶナイフを、触手が掴み、投げ返した。


『があっ!?』


 投げ返されたナイフは撃ちだした腕を貫いた。


『もう、うるさいなあ……そうだ!』


 楽しい事を思いついた子供の無邪気さでブレインはミレーユとベルサの首に細い触手を幾重にも絡ませて行く。


『この2人がゆっくり窒息死して行く様でも見せれば、静かになるかな?』

『貴様っ!!』

『いい性格してるわね、本っ当に!』


 這いつくばりながらも激昂をするアティとユーリーが何とか立ち上がり、睨み付ける。


『あら、先に不意打ちして来たのはそっちでしょ?』

『人質をとった貴様が言う事か!?』


 ユーリーとアティが『モノノフ』の脚部から拳銃を引き抜くが、2人の射線の間にミレーユとベルサを重ね、眼前に突き付けてくる。


『そんなにボロボロになっちゃって、手元が狂ったら大変ね? ――そろそろ遊ぶのは止めて、増援が来る前に貴方達を片付けないとね。どう言う状況にして置けば、出会い頭の戦意を奪えるかしら?』


 試行錯誤を試そうかと、ブレインがミレーユとベルサを再び掲げ上げようとした時、紺碧色の影が疾風と共に奔(はし)った。

 ベルサとミレーユを縛っていた触手が全てオレンジ色の飛沫を上げて飛び散り舞う。

 地面へ落ちる2人をアティとユーリーが受止めると、ブレインとユーリー達の間を紺碧色の『モノノフ』が――ベニーが立ち塞ぐ。

 その手には紅く輝く大太刀の『ネネキリマル』が握られ、刃先にはオレンジ色の雫が滴り落ちた。

 黙りこくったままのブレインが切断された自分の触手を観察し、ベニーへを顔を向けた。


『――やるじゃない』


 ブレインの体から4つの触手が一斉に飛び出しって来る。

 ベニーがホバー移動によって、身を前に飛び出せて行くと4つの触手が追跡をかけて来るが、振り向きざまに大太刀で中段から上へと一閃。

 音も立てずに4つの触手が斬り崩れて行く。


 その結果にブレインは不敵な笑みを崩さない。


『いいわ……何本でも再生して付き合って――』


 が、再生を始めた触手の速度は今までとは比べ物にならない程に弱々しいものだった。

 ベニーが大太刀を上段に構え、踏み込みの用意をする。


『たいした能力だな、お前を滅多切りにし終われば触手の再生が終わるんじゃないか?』

『……うそ、まさか、炉が破壊されたって――ぎっ!?』


 前触れも無く、ブレインの頭部が複数の銃撃音を伴い、幾らか弾けた。

 それが自分達以外の誰かが撃ったものだと気づいたユーリーは、銃弾が飛んで来た部屋の入り口へと慌てて振り返った。

 ブレインも苛立ちを隠そうとせずに、銃撃を起こった者へと振り向いた。


『よう、舞踏会の会場はここかい?』


 両手で大型拳銃を構えたエイブラムを筆頭に、7機の『ソルジャー』が駆けつけた。

 7機の『ソルジャー』は大小の負傷を抱え、酷い者は火花を装甲から上げながら損傷の少ない仲間に肩を担がれているが、その手には大型拳銃が握られている。


『体に溜め込んでいた分を使う羽目になるなんてね……』


 ブレインの頭部の損傷がオレンジ色の泡を立てて急速に回復していく。

 エイブラムが軽快に口笛を吹いた。


『まだ回復できるのかい、ミス・化け物フリーク。 後、何回殺せばいい?』

『さあ? 自分の体を使って試してみたらどうかしら?』

『そいつは魅力的な提案だ』


 前へと突き進んでいく『ソルジャー』に、動けるユーリーとアティの『モノノフ』も加わる。

 必要が無くなったのか、ブレインは天井の管からオレンジ色にテカりついた尾を抜き降ろし、長い胴から尾にかけて触手を生やして脚として使い始めた。

 甲高い虫のいななきが部屋の空気を振動させ木霊する。


『行こうか、ラストダンスだ』


 満身創痍のパワードスーツ達がブレインへ一斉に攻撃をしかけた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る