番外編

番外第1話 宣伝のために

 都内某所。

 角川第3ビルの会議室にて――


「そろそろ本が出る」

「……ッスね」


 俺と担当編集はいつものようにタバコの煙をくゆらせながら打ち合わせをしていた。

 何が悲しくて野郎と顔をつきあわせて話し合わなきゃいけないんだ。


「KADOKAWAとしても万全のバックアップで挑む」

「それはありがたい」

「俺は週末のニコ生に出演する。毎月やってるファンタジア文庫放送局だ」

「その凶悪なツラでニコ生とか、正気かよ」

「うるせぇよ! これでも人気あるんだぜ俺は! 女子のファンとかたくさんいるからな。オメーとは違うんだよ」

「ヤクザに女性ファンとか、どんな世紀末だよ……」


 しかし宣伝してくれるのはありがたい。

 今のご時世、作品の中身よりも宣伝の方が重要とまで言われているからな。


「もちろんイースト=ウェスト大先生のイラストも用意してある。こういった宣伝は文章より絵の方が目を惹きやすいからな」

「さすがだぜ、イースト=ウェスト大先生」

「挿絵だけじゃなく、ドラゴンマガジンの見開きイラストも描いてもらった。ドラマガは3月18日発売、ちょうどオメーの文庫と同じ発売日だ」

「なるほど、ドラマガ読者に向けても宣伝するわけだな。アリマさんもイースト=ウェスト先生も大したもんだ」


 本当に二人には感謝している。

 俺の小説とも呼べない、エッセイのような旅行記を本にしてくれたのだから。

 異世界に行って取材をするという、ラノベ作家なら誰でもやっている当たり前の行為を書くだけで出版できてしまうのだから、世の中簡単なものだ。

 だったら他の作家も書けばいいだろう、と思うが、なかなかそうはいかない。

 なにしろ素人がマネをしたら危険だからだ。

 ラノベ作家を目指す若者への注意喚起という意味もあるのだ、俺の本は。


「いやー、無事に出版できてよかった」

「いや、何終わったような口ぶりなんだよオメーは」

「……え?」

「俺は編集業の他にニコ生に出て、イースト=ウェスト先生はイラストを描いた。オメーは何やるんだって話だよ」

「待てよ! なんで俺が何かやらなきゃいけないんだよ!?」

「宣伝のために決まってんだろ!」

「宣伝は出版社の仕事じゃねーのかよ! 作家にモノ書かせて、その上宣伝までやれっつーのかよ! 出版社って何するための組織なんだよオイ!」


 机を叩いて立ち上がる俺。

 ネット小説の拾い上げなんて、プロットすら作家任せだ。

 誰もが編集者という仕事に疑問を持つのは当然だろう。


「あー……まぁ、聞け」


 椅子に座るよう示して、アリマさんは灰皿にタバコを押しつける。


「確かに宣伝は出版社の仕事だ。俺もできる限り努力する。だがな、どうしても宣伝できないものがあるんだ」

「なんだそれ」

「いいか、この『異世界取材記』は、異世界の魅力を伝えるガイドブック的なものだ。だけど俺はあんまり異世界に行った事がねぇ。異世界とはこういうものだ、っていう雰囲気を読者に伝えるためには、やっぱり経験者が適してるんだわ」

「あー……そういうもんか」


 腕を組んで考えてしまう。

 確かに俺は異世界で様々な経験をしてきた。

 その経験を読者に伝えるという事であれば、俺が適している――

 ていうか、そもそもそういう本だしなコレ!


「けどよ、そういう事だったら本編を読めばいいんじゃねーのか?」

「ああ、小説ならそうだな。だから宣伝は別の切り口で行こうと思う」

「別の……? 俺に何させる気だ?」

「お前、動画作成経験はあるか?」

「さぁ……ちょっと経験ないなぁ」

「嘘つくんじゃねーよ。お前いくつか動画アップロードしてるじゃねーか」

「いや、違っ、あれは前の作品の宣伝で色々」

「つーわけで、ほれ」


 アリマさんが渡したのは、一台のデジカメ。

 最近のビデオカメラは小さいな。手のひらサイズだ。


「これで異世界Youtuberになってこい」

「おいそれ別のラノベでもあった企画だろ! 俺が今さらやることかよ!」

「宣伝のためだ、諦めろ」

「ふざけんなボケ! 誰がやるかぁーーーっ!!」


 かくして、俺の宣伝の旅が始まろうとしていた――

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