第47話 アミューさん

 飯田橋の駅で待ち合わせ。

 約束の時間より少し早く来たが、約束の時間になっても現れない。

 ちょうど一〇分ほど遅れて、アミューさんがやってきた。


「ごめんネ! 遅れちゃっタ!」

「仕方ないさ、忙しいんだろ?」


 俺はアミューさんを伴って、近くの駐車場へと赴く。

 車に乗って、首都高へのルートを進む。

 今日は友人の作家が良く切れるナイフを譲ってくれるというので、アミューさんを連れていきたかった。ナイフに関しては彼女の方が詳しい。

 それに、話したい事もあった。


「アミューさん、今は何の仕事やってるんだ?」

「基本的にはガイドだヨ。でも、KADOKAWAの人のお手伝いが多いかナー。今日も私の世界の文化について、色々と教えてきたんだヨ」

「ナミオカさんに?」

「ウン! あの人、まだゲームの開発続けるんだッテ」

「そりゃそうだよなぁ。もはやゲームっていうか、巨大な会議室みたいなもんだけど」


 今でもトスターの町の酒場は、プロットを交換する作家で溢れているらしい。

 いわばアイデアそのものの市場だ。

 新しい刺激を求める作家が訪れる、大がかりなチャットルーム。


「それでナミオカさん、センセーの昔の話、いっぱい教えてくれたよ」

「あの女ァーーーーーーーッ!!」


 クソッ、本当にやりやがった!

 これだからデビューから世話になってる編集は苦手なんだ!


「でも、センセーのやり方を褒めてたヨ? ゲームを意見交換の場にしてくれた事、とっても感謝してたヨ」

「ああ……まぁ、な」

「嬉しくないノ?」

「……こないだ、とある先輩に言われたんだよ。『プロットを交換して、ネット投稿するだけじゃ売れない』ってさ」

「そうなノ?」

「ま、その通りだよ。それでも売れた連中は、ちゃんと今風にアレンジしていた奴らだ。実際は売れない奴の方が多かった」

「古いだけじゃダメなんだネ」

「斬新なだけでもダメだけどな。難しい問題だよ」


 POKからネット小説を投稿する事によって、売れる可能性は上がった。

 だが、それでもこの業界で生き残るのは難しい。

 ただ流行を追うだけでは、いずれ時代に追いつかれて、追い落とされる。


「……あのさ、アミューさん」


 俺は車を路肩に停める。

 走りながらだと、言いにくい。


「どしたの、センセー?」


 ウィンカーの音が時計の針のように俺を急かしているような気がした。


「今言ったように、流行を追ってるだけじゃダメなんだ。次の流行はどんなものが来るのか、いろんな手段で探る必要がある」

「次は何が流行るノ?」

「分からねぇ。女神でも分からねーと思う」

「じゃあ、探すの大変だネ」

「それでも、俺は探さないと――いや、探しに行きたい」


 次の流行、あるいは俺の中で絶対的に面白いと思えるもの。

 確実に売れると確信できるネタ、あるいは確実に売ってやると情熱を燃やせるネタ。

 それが、たまらなく欲しい。


「俺は、また異世界に行く」


 それは決意の表明。

 アミューさんに聞いて欲しかった。


「アミューさんの世界じゃない。何があるのか分からない、完全に未知の世界に行く。誰も想像もつかないような冒険が待っている、とても危険な旅に行く」

「……ウン」

「だから超優秀な相棒が欲しい。アミューさん、一緒に来てくれないか?」

「イイヨ!」

「…………」


 なんでそこで快諾してくれるんだろう。

 ……いや、快諾してくれるような人だから、か。


「あの、本当に危険なんだぞ? ガイドの知識も経験も役に立たないかもしれないヤバい旅になるんだぞ?」

「だからだヨ! センセーひとりじゃ危ないんでショ? だったら私が一緒にいれば、二人で生きて帰れるヨ!」

「……アミューさん」

「まっかせテ!」


 どん、と大きな胸を叩くアミューさん。

 ああ、やっぱりパートナーとして選んで良かった。

 JKと三人で旅をするのも楽しいが、なんというか、アイツは本当に妹のような感覚なんだよな。だから守ってやりたいと思うし、危険な場所には連れていきたくない。

 その点、アミューさんは背中を守ってくれる安心感がある。どこへ連れていっても大丈夫という信頼があるんだ。


「ありがとう」

「ううん、いいッテ!」

「あぁ、それと……」


 ――言え、俺。

 今まで面と向かって告白した事なんてなかったろ。

 ほら、今がチャンスだぞ!


「センセー?」

「あ、いや、なんでもない。そろそろ行こうか」

「ウン! ナミオカさんも言ってたヨ! センセーはヘタレだから、ゆっくり待つといいんだッテ!」

「なんであの女そこまで知ってんだよっ!!」


 恋愛相談なんて一度もした事なかったのに、クソッ、これだから編集は。


「でも、まぁ、ゆっくり……か。生きて帰る理由としては、一番かもな」

「目標があるのはいい事だヨ!」


 と、目標そのものが励ましてくれる。

 待っててくれるだけ、幸せ――と考えていいんだよな。


「改めて、よろしくなアミューさん」

「まっかせテ! サイッコーのライトノベルができるまで、ついていくヨ!」

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