第46話 それからどうなった

 俺達がゲームから抜け出して、しばらく経った。

 話題のクソゲーPOKは、結局一般サービスする予定はなさそうだ。

 ただし、どこからか聞きつけてきた作家が望んでゲームの世界に入ろうとする。

 MMOの取材としては一級品だし、何よりそこには他の作家がいる。

 創作について語りたい連中が集まる場として、とても都合が良いそうだ。

 スカイプやSNSとは違い、直接顔を合わせて話をすると、能率が段違いだそうだ。バーチャル空間でも、それはしっかりと実証されているらしい。


 作家同士でプロットをやりとりしたおかげで、売れた作品は増えた。

 だが、それは絶対数の問題だ。

 成功した作品の上には、その数十倍の失敗作が存在する。


 俺がやったのは、意識を変える事だ。

 ひとりで悩むより、誰かと共有した方がいい。

 他者と触れ合う事で、自分の殻を破る可能性を上げられる。

 それだけの、ごく簡単な変化だ。


 意識を変えず、ただ昔と同じやり方でネット小説に投稿しても失敗する。

 そういう意味では、アバラヤマやダルト帝国の連中も、どこかで変わりたいと思っていたんだろうな――


 ゲームから脱出した俺は、結局外で一冊書いて担当に渡した。

 クリア前に抜けるというズルをした分、しっかり小説を書かないといけない気分になり、結果としていつもより早く書き上げてしまった。

 で、今日は執筆も終わった事だし、軽く飲みに行こうと思ったのだが――


「だから貴様は異世界ファンタジーにこだわりすぎているんだ! あといい加減ツイッターのご意見番気取りはやめろ! 自分がラノベ作家代表みたいなツイートをするな!」

「うるさいな~、そんなの読み手の問題だろ~? それよりお前もそろそろ異世界ファンタジー書けよ~。ネット小説の喜びを知ったんだから、次は異世界ファンタジーだろ~」

「誰がそんなくだらないものを書くか! 俺はそれでも学園ファンタジーを書く!」


 なんでヌルハチとアバラヤマがいるんだよ。

 俺はJKとアミューさんを誘っただけなのに。


「あー……なんか、ごめん。呼んだ方がいいと思って」

「お前の仕業かJK」

「ごめんごめん。だってアミューさん来られないって言うから」


 アミューさんは今日もガイドの仕事だ。

 異世界から来た旅人を案内している。ついでにアップデートが続くPOKの手伝いもしている。俺より忙しくて、俺より稼いでるんじゃないか。


「なに、アミューさんがいなくて寂しい?」

「そりゃ寂しいよ」

「だよねー」

「お前がいなくても寂しいぞ」


 ビールのジョッキを一気に煽って、俺は深くため息をつく。

 いつものメンバーが揃わないのは、やっぱり寂しい。


「あ……そ、そっか。うん、うん……」

「どしたJK」

「ううん、なんでもない」

「まぁいいや。お前にも色々と詫びなきゃいけないと思ってたからな」

「お詫びされる事なんてあったっけ?」

「今回のゲーム、完全に巻き込んじまったろ」

「そんな事ないって。あたし、すっごく勉強になったもん」


 そう言ってJKはスマホを見せる。


「タムラ先生やロック先生の他にも、いろんな作家さんと知り合いになれたよ。ほら、LINEのやりとりもしてるし」

「お前本当に誰とでも友達になれるな。やっぱJKってすげーな……」


 コミュ障が多い作家の中では、異常なほど人懐っこい娘である。

 それはもはや武器のひとつと考えてもいいだろう。


「それにもうすぐ四巻が出るんだって? デビュー作にしちゃやるじゃねーか」

「先生のおかげだよ。ありがとね」

「本当に何もしてねーけどな」


 女子高生という立場で四巻も出せる実力があるんだ。

 もはや俺が何かアドバイスをするどころか、俺よりずっと上に行っている。


「けどな、JK。そろそろ新しい話も考えないといけないぜ」

「うん」

「お前のデビュー作、異世界ファンタジー好きの読者に刺さったけど、そろそろ異世界ファンタジーブームも飽和してる。いずれバブルは弾ける」


 前にアバラヤマが言っていた。ヌルハチは「二〇一七年で時が止まっている」と。

 異世界転生モノの前は、アバラヤマが得意な学園ファンタジーが流行った。

 その前はミステリじみた暗い話だったり、能力者バトルものなど――

 ブームというのは、必ず終わりが来る。


「せんせーは、これから何が流行ると思う?」

「さーな。それが分かれば苦労はしねーよ」

「だよねー」

「それに、だ。流行に関係ない、絶対的な面白さを追求するのも大切だ」

「……うん。あたしの作品も、流行ってるから書いたわけじゃないし」

「とはいえ、他に好きなものはあるだろ。それを書けばいいんだよ」

「うん。次もがんばるよ」


 微笑むJKの頭を撫でる。

 妹ってのは、こういう感じなのかもしれないな。


「ねぇ、せんせー。あたし……」

「ん?」

「……ん、なんでもない」


 言いかけた言葉をジュースと一緒に飲み込むJK。

 彼女が何を言いたかったのか、俺は後で知る事になる。


 俺は俺で、本当はJKに言いたい事があった。

 ヌルハチとアバラヤマの口喧嘩を聞いていて、俺も考えるべき事があった。

 次を――

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