第40話 袖すり合うも多生の縁

 そう、自分の意志でプロットを選ぶ。

 編集者から押しつけられたものではなく、自分で書きたいものを選ぶ余地がある。

 この差は天と地ほどもある。

 無論、編集者から渡されたプロットを選ぶ権利もある。

 しかし誰かが書いたプロットを自ら吟味し、考案者と話し合い、それを感謝の気持ちと共に譲り受けて執筆するのは、作家としてのモチベーションが大きく変わる。


 あくまで、権利だ。

 中には全て自分で考え、書きたいと思う者もいるだろう。

 誰かの考えた話を清書するだけで自分のラノベになるわけがない、と思う者もいる。

 そういう人は自分の力で書けばいい。

 俺の提案に乗ってくれた作家だけが、この酒場にいる。


「うんうん、やっぱりカリンちゃんって見かけによらず熱い話が好きなのね~」

「タムラさんは色んな方面にアンテナを伸ばしてて、すごく尊敬します」


 テーブルで楽しそうにプロットを練るJKとタムラさん。

 お互い自分にないアイデアを出し合い、互いのプロットを強化していく。

 そういうやり方もある。

 要は自分以外の誰かの力を借りる事を是認すればいいのだ。


 ここはゲームの中。

 金銭のやり取りも、編集者の思惑も関係ない。

 もともと面白い話を書くのがゲームクリアの条件だ。


「カリンちゃんの受賞作も面白かったわ~。下読みの頃から、この子は絶対に賞を取るって確信してたもの~」

「えっ、タムラさん、下読みなさってるんですか?」


 ライトノベルの一次選考で審査する大量の小説を読む仕事、下読み。

 たまにプロ作家が勉強のためにバイトで読む事があるのだ。


「タムラさんはずっと昔から下読みやってるんだ」


 俺がJKに補足する。


「ここだけの話、俺やキノシタの受賞作を拾い上げてくださったのもタムラさんだ」

「えっ、そんなに!?」

「下手な審査員より見る目があるぞ、この人は。そんな人に褒めてもらえるって事は、すごい事だぞ。喜んでおけ」

「あ、ありがとうございます! タムラさん!」

「やだも~、そんなに大したものじゃないわよ~」


 笑顔でケーキを食べるタムラさん。

 こののんびりした笑顔の中には、恐るべき才能が秘められているのである。

 だからこの人に逆らえる人など、ラノベ業界には存在しない。


「セ、センセー、大変だヨ!」


 JK達を見て和やかな気分になっている所に割り込んでくるアミューさん。

 いや彼女は全然悪くないんだ。

 揉め事を起こした奴が悪いんだ。


「どうしたアミューさん!?」

「ケンカだヨ! さっきの人!」


 少し離れたテーブルで会話をしている男がふたり。

 片方は先ほど市場でプロットを買った若いプレイヤー。


「どういう事ですか!? このプロットを売れないって! さっき俺が買ったばかりじゃないですか!? それにさっきまで俺達、すごく実のある話をしてたじゃないですか!」

「うん、まぁ、そうなんだよね。すごくイイ話だった。僕達が考えたこの話、小説にしたら絶対に面白いよ」

「じゃあ……!」

「うん、だからこそ売りたくなくなったんだよね。この話、僕が書きたい」

「何を言ってるんだ! これは自分じゃ書けない話だから市場に流したんだろ!」

「書きたくなったんだからしょうがないだろー!


 大人げなく怒鳴り合っている作家達。

 アミューさんが困った顔で俺を見るのは、「止めるべきか否か」迷っているからだ。


「いいよ、止めなくて」

「いいノ?」

「これは作家同士の、作家としての殴り合いだ。大丈夫、見てな」


 俺がアゴで連中を指し示すと、若い方の作家が立ち上がった。


「フン! どのみちプロットは俺の頭に入ってるんだ! そっちが書きたいって言うなら書けばいいさ! 俺も書いてやるよ!」

「ふ、ふん! ベテランの僕より面白い話が書けるわけがない!」

「書いてやろうじゃねーか! 見てろよ、結果はすぐに出るんだからな!」


 むしろこれからケンカが始まるようだ。

 こういうスレ違いもあるが、ストーリーラインを他者と共有するのは、それなりにリスクもある。それを乗り越えて、お互いが納得する話が書けるかどうかは、個人の問題なので俺は責任が取れない。

 なんにせよ、彼らの作品が今から楽しみである。

 少なくともモチベーションは二人とも最高だからな。


「さて……と」


 俺はさらに移動し、酒場の奥に行く。

 おそらくもっと派手なケンカをしているであろう連中を見に行くためだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます