第33話 誰
「誰が……プロットを書いたか……?」
俺の言葉に、JKとアルチュールとアミューさんがハッとなる。
対してヌルハチとアバラヤマは苦々しい顔をしている。
「ちょっと待ってよ、このプロットって編集さんが書いたんじゃないの?」
「JKはそう思うか?」
「……そういう事って、よくあるんじゃないの? あたしはこの業界よく知らないから分からないけど」
「まぁ、ない話じゃない」
編集者がマンガ原作をするケースはよくある。
さっきJKに言ったように、作家と一緒にネタ出しをするケースもある。
そしてプロットを書いて渡すケースも、ある。
「というか、近いケースならあった。編集が用意したプロットの通りに書けってな。もちろんブチキレて突っぱねたけどよ」
「あー、それ俺もあったわ~……」
ヌルハチも同意してくれる。
「そーゆーのがイヤだったから、ネット小説の世界に飛び込んだのさ。こっちは編集なんて必要ない、全部自分でできるから楽しいんだよ」
「……だからクオリティが下がるんだ、この下手クソめ」
アバラヤマは反論する。
「編集者は作家と二人三脚する立場だ。時としてシナリオを考える事もある。だが自分で用意した話を押しつけるような編集はクソだ。そんな事は誰だって分かる。そんな一部の例を取り上げて、何がしたいんだ」
「まぁ待てよアバラヤマ。話は終わってない」
俺はプロットの紙片を叩く。
そう、編集が書いたプロットというなら、まだ納得はできるんだ。
「仮にこいつが編集が書いたものだとして――なぁお前ら。このクエストって今まで何回開催されたんだ?」
「っ!?」
全員が驚愕する。
そう、今まで複数回行われたクエスト。
クエストの報酬が眠っているダンジョンも複数ある。
その報酬が全てプロットだったとして、全てを編集者が書いてるのか?
「編集者ってのは、文字通り編集をする仕事だ。原稿を本にするために様々な仕事をしてくれている。その忙しさたるや作家の比じゃない」
俺も苦労をかけている自覚はある。
思い通りにいかない事を、思い通りにいくように色々なものをねじ曲げてもらった。
腹は立つが、感謝もしている。
「仕事をしない作家などごまんといるが、仕事をしない編集者などすぐにクビだ。そんな忙しい編集者が、これだけたくさんのプロットを書けるわけがない」
「じゃあ、せんせーは誰が書いたって言いたいの?」
「誰かが書いたんだよ」
「……なにそれ?」
「書ける誰か――それはプロアマ問わず、誰でもいい。そのへんから拾ってきたスクラップを、使えるように修理した……そんなところだろう」
「スクラップって……」
俺が言葉を続けようとした時だった。
「ホイ?」
アミューさんが虚空を見て、なにか喋っている。
「え? あー、あー、イイヨ! ちょっと待って……ホイ、これで……」
「おいアミューさん、どうしたんだ?」
「んーとね、お話があるんだッテ」
「話? 誰が?」
俺が尋ねるやいなや、アミューさんが急に倒れた。
「アミューさん!?」
かと思うと、いきなりその場に座り込む。
そうして俺を見ると――
「――おう」
いきなりガラが悪くなった。
眉間に皺を寄せてガンを飛ばすそのツラは、どう見てもヤクザだ。
「……アミューさん?」
「ちげーよ、俺だよ、アリマだ」
「アリマさん!?」
俺の担当編集ではないか。
なんでアミューさんの身体で喋ってるんだよ。
「急いで伝えたい事があってな。アミューさんの端末を借りたんだ」
「……ああ、そういう事スか」
なんでよりによってアミューさんを……。
いや、それだけ切羽詰まっていたのだろう。大至急伝えたかったのだ。
それにしたって、もうちょいマシな手段があったんじゃねぇのか!
「単刀直入に言うぜ。KADOKAWAはこの事を知らねぇ」
「……はぁ?」
何言ってんだ、このヤクザは。
KADOKAWAが作ったんだろ、このゲームは。
「お前らが作ったゲームだろ! イベント管理してんのもお前らじゃねーのか!?」
「“お前ら”って簡単に括るなよ。KADOKAWAが何人抱えてると思ってんだ。このゲームがテスト運用って事を忘れんなよ? 一部の開発者が実験的に運営してんだよ」
「じゃあ、テメーはその一部の開発者じゃねーのか? 俺に勧めたのもテメーだろうが!」
「……ああ、そうだ。勧めたのは俺だ。だけど信じてくれ、俺はプロットを巻き上げて他の作家に渡すような真似は……」
「巻き上げたぁ!?」
今なんつった、このヤクザは。
俺達がアミューさん――の姿をしたアリマに近づくと、彼は肩を落としてこう言った。
「俺じゃねぇんだ、マジで……俺は違うんだ。一部の編集の暴走を、社全体の悪口みてーに言わないでくれるか」
「てことは――やっぱりいるんだな」
「ああ」
アリマは頷いた。
「ボツにしたプロットを奪い、横流しする編集がいる――いや、正確にはいたんだ」
「マジかよ」
「そいつは話題作りのためならなんでもやるヤツだった。作家の使い捨てなんて当然、名のあるライターに書かせるために汚い手を使ったり、逆に気に入らない作家を陥れるために噂をでっちあげたり――」
「そんな編集がいるのかよ」
「いたんだよ。バレて速攻でクビになったんだ」
「じゃあ、KADOKAWAのゲームとは関係ないじゃねーか」
「俺もそう思ってたんだがなぁ……」
アリマは頭を掻いて虚空を見る。
「どうもそいつの手口に似てんだわ。短い間だったとはいえ、同僚だ。そいつがどういう方法で原稿を手に入れるのか、なんとなくパターンが分かっちまう」
作家の文章に癖があるように、編集のやり方にもそういうものがあるのだろう。
だが、その編集がいないとなると、いったい――
「だから忠告しに来たんだ。そいつの言葉には乗るな。そのプロットも捨てろ。そんでもって、俺が――ぐ――――-っ――――」
「アリマさん?」
「――――――――ぉ――――」
「アリマさん!!」
苦悶の表情を見せた直後、アリマ――アミューさんのアバターが動かなくなる。
倒れたわけでも、消えたわけでもない。
直立不動のまま、何もない空間をまっすぐ見ているだけ。
明らかに誰も操作していないような、からっぽの状態。
一体、どうなっちまったんだ……?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます