第32話 ご対面

 それからの戦いも似たようなものだった。

 強力なモンスターが出るたびに、JKかアルチュールが始末する。

 レベルも六〇が頭打ちのようで、途中の戦いでレベルアップした俺達なら難なく倒す事ができるようになった。

 この道中だけで、俺もレベル三〇になった。

 どうやら序盤はサクサクレベルアップできる仕様らしい。スキルが主体のゲームなので、色々なスキルにポイントを使わせるためだろう。

 JK達が戦っている後ろでステータス画面とにらめっこしながら、俺はスキルポイントをいくつか割り振った。これで少しは助けになるだろ。


「これで……最後っ!」


 JKの手から放たれる召喚獣。

 もはやMPを使うのがもったいないので、自前の召喚獣で倒す戦法に切り替わっていた。キノシタに感謝しつつ、鎧型のモンスターを薙ぎ倒していく。

 どうやら自前のスキルは“その他属性”に類するらしく、このゲーム外で手に入れた力は全てそういう計算方法になるらしい。

 もともと脳をいじって電脳空間にログインさせるゲームだ。ルール外の行動は許されないはずだが、現実との整合性が取れないと不具合が生じるのだろう。


「もういない? これで終わり?」


 周囲を見回すJK。

 俺のマップには、もう敵の反応はない。


「これで最後だ。やったなJK!」

「疲れたぁー……いや、ゲームだから全然疲れないはずなんだけど、気持ち的にすっごい疲れたよ……せんせー戦わないし……」

「戦ったろ! めちゃくちゃ銃で援護したろ!」

「戦ってないのは私だヨー」


 申し訳なさそうにアミューさんが苦笑する。


「い、いや、アミューさんはGMだからしょうがないじゃない! せんせーは戦えるのにサボッてたし」

「だから戦ったって! ダメージが低すぎて目立たなかっただけだ!」

「ウンウン。後ろからセンセーがちゃんと戦ってるの、私は見てたヨ」


 フォローしてくれるアミューさんには感謝しかない。

 いや、俺の数倍のDPSを叩き出して活躍してくれたJKにも感謝しているが。

 戦闘になると俺本当に役に立たないなぁ。

 いや、戦う事はできるが、もはやJKには敵わないだろう。


「お三方とも、仲がよろしいのですね」


 そんな俺達を遠巻きに見て微笑んでいるアルチュール。

 彼女は仲間と離れて俺達と一緒に来たのだ。

 故郷や王国にいる仲間の事を思いだしたのだろうか。


「アルチュールさんも強かったぜ! ありがとう!」

「いえ……こういう戦闘は私も久々でしたので。剣の腕がなまっていなくて良かったです」

「うんうん、強かったよアルチュール!」


 JKが手を叩いて喜んでいる。


「カリンもとても強力なスキルを持っていますね。やはり、そのくらい強くないとラノベ作家にはなれないのでしょうか?」

「なれないって、せんせーは言ってたけどね」

「私はイラストレーター志望ですが、イラストの世界もそのくらいの覚悟が必要だと聞きました。より精密な描写をするためには、取材に耐えられる強さが必要だと」


 どこの業界も同じなんだなぁ。

 強さというか、タフさがないといけないと思う。

 敵を倒した奴ではなく、生き残った奴が強い――そういう業界だ。

ライトノベルもイラストも同じだ。


「あ、見て! 開くよ! 次のフロア!」

「あとどれくらいあるんだ……?」


 壁が横にスライドして、次のエリアが出現する。

 さて、待っているのはどんなモンスターか――


「お~、遅かったね~」

「なんだお前ら、先に入ったくせにこんなに時間かけたのか」


 ヌルハチとアバラヤマだった。

 たった二人でこの部屋にいたのか。


「お前ら……どっから入ったんだ? 他の連中はどうした?」

「んーとね、最初にいろんな入口があったでしょ? あれ、どこから入っても最終的にこのゴールに繋がるみたいなんだ~」


 そういう作りになっていたのか。

 ヌルハチもアバラヤマもモンスターを倒してここまで来たんだな。


「他の連中は帰らせた。ここにある宝は――見せたくない」


 眼鏡を押さえるアバラヤマ。

 彼の言う通り、フロアの中央に大きい宝箱がある。

 金の枠で縁取りされた、いかにもな宝箱だ。


「そうだよ、そもそもアバラヤマ、なんでお前はここの宝を狙ってたんだ? 興味なかったんじゃないのか? ヌルハチだって」

「宝そのものには興味はない。だが……気になる事があった。だからどうしても宝の正体を確かめたかったんだ」

「ま、見れば分かるよ~。せっかくだし、開けようよ」


 そう言ってヌルハチは無造作に宝箱に手をかける。

 鍵はかかっておらず、あっさりと開く。

 ヌルハチはそこに手を入れ、中のものを取り上げる。


 それは――数枚の紙片。


 全員でヌルハチのもとに集まって、紙に書かれているものを見る。

 文字だった。

 その紙に書かれているのは、コンセプト、キャラクター、ストーリー、世界設定、人物相関図など――

 俺が腐るほど見て、書いたものだ。


「これ……プロットじゃねーか」


 物語の企画書。

 担当編集や他の編集者に対し「こういうものを書きます」とあらかじめ知らせるための簡単な文章。

 設計図であり、骨組みであり、ネームでもある。

 中にはプロットを書かずに小説を書ける猛者もいるが、そういう連中は頭の中に完璧なプロットが存在し、かつ編集との信頼関係も良好なのだ。


「プロットが……宝? クエストの報酬?」


 つまりこれは編集からのプレゼントなわけだ。

 編集が渡したプロットに沿って話を書けば、そりゃ編集が望むような小説ができる。

予想はしていたが――最悪のクソッタレな報酬だ。


「編集さんがプロットを作家に渡すの? そういう事ってあるの?」

「……ある」


 JKの質問に、俺だけじゃなくヌルハチやアバラヤマも頷く。


「別にラノベに限った話じゃないよ~。マンガだってよくある事だし。むしろ誰の助けも借りずに物語を考えるケースの方が少ないよね~」

「複数人で物語を考える作家もいる。チームを組む作家もいる」

「そう……なんだ」


 少し寂しそうなJK。

 ラノベは自分の力で書き上げるもの――そう思っているんだな。


「JK。お前もいずれ編集には世話になる。例えば――だ。話作りに行き詰まって、編集と会話してたらパッとアイデアが浮かぶ、なんて事もあるだろう」

「……うん」

「他にも編集が貸してくれた資料で話に広がりが生まれたり、編集のアドバイスによってそれまで思いもしなかったキャラが生まれたりもする」

「……そうか。そうだね」

「そう考えると――編集がプロットを作家に渡すケースも、まぁ理解はできる。俺は死んでもごめんだが、それで助かる作家もいるだろう」


 俺はヌルハチからプロットを受け取り、内容をさらに深く読み込む。


「問題は――このプロットはって事だ」

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