第30話 前へ
ダンジョンに足を踏み入れると、ようやく冒険している気分になってきた。
今まで俺達はゲームの観察やチュートリアルしかしておらず、プレイヤーとしてゲームを楽しむ行為をしていなかった。
このクソッタレなゲームを楽しんでいるヌルハチやアバラヤマ。
それと、ゲームを楽しんでいないプレイヤー達。
そういう連中を眺めるだけで、俺自身は楽しむ事も楽しまない事もしなかった。
だから、このダンジョンこそがゲームの第一歩だが――
「せんせーも戦ってよ! なんであたし達ばっかり!」
「しょーがないだろ、俺今レベル二……あ、今三に上がった!」
俺は暴力が大嫌いだ。
だから戦闘はJK達に任せて、後ろで応援する係に徹したい。
ダンジョン内に生息するモンスターは、蝙蝠や虫など暗いところを好む生き物。
……の、巨大なバージョンだ。
どういう事かというと、人間サイズの生き物が迫ってくるのだ。
想像してみよう。人間と同サイズの芋虫に襲われる恐怖を。
ゲームというだけあって、多少デフォルメされてはいるが、キモい。
見ただけで排除したくなるが――そう簡単にはいかない。
「ていうか、ここの敵強すぎない!? あたしもキッツイんですけど!」
JKがスキルをバンバン駆使してモンスターを倒していく。
しかしそんなJKも息切れしている。肉体的なものではなく、ゲーム的なリソースの問題、つまりMPに相当するものが減っている。
俺もJKも低レベルなので、エネルギーがないのだ。
強いスキルを持っていても、使えなければ意味がない。
幸いJKはMP吸収スキルを持っているので、ある程度は賄えるが――
「敵のレベルは……四〇前後か。俺らの二〇倍近くはあるな」
「普通に考えて、上級者向けのダンジョンだよね? 初心者のあたし達が入っていいダンジョンじゃないよコレ! なんで入ろうと思ったの!?」
「そりゃお宝が見たくて……」
レベル一でよく入ろうと思ったな、俺。
たまにこれがゲーム内だって忘れちまうんだよな。
ほとんど現実と変わらない作りになっているせいで、自分の強さが分からなくなる。
普通の人間は銃で撃たれたら死ぬが、このゲームでは剣で刺されても死なない。
現実ではひ弱なガリガリの作家でも、ゲーム内でレベルを上げれば無双できる。
しかし、レベルとは関係ない強さもある。
「はぁぁぁぁぁぁっ!」
唯一まともに戦えるアルチュールがバッタバッタとモンスターを薙ぎ倒している。
そのたびに経験値がモリモリ入り、どんどんレベルが上がっていく。
「すまないな、アルチュールさん」
「いえ――」
「ていうか、アルチュールさんは本来ヌルハチの国の人間だろ? いいのか、俺達についてきて?」
「それは……いいです」
アルチュールは僅かに考えて、そう答えた。
「私も“王国”にいたら見られなかった景色を見てみたいですから」
剣を器用に振り回し、アルチュールがどんどん敵を倒す。
そのおかげで、俺とJKのレベルは十五を超えた。
最初はそうやってサクサクレベルが上がっていくんだよな。
問題はこのフィーバーがいつまで続くかという事だが……。
「
JKの周囲にいくつもの魔法陣が浮かび上がり、そこから機械のような生き物が飛び出してくる。魔法陣の数だけ出現した助っ人は、次々にモンスターを薙ぎ倒していった。
現実世界で覚えた召喚獣は、ゲームのモンスターも倒してくれるようだ。
どういう判定になっているのか気になるが、倒せるならよしとしよう。
「さっすがJK! いい召喚獣持ってるなぁ!」
「キノシタさんに教えてもらったんだ。戦闘用の召喚獣なら色々使えるよ!」
はっきりいってチートなのだが、それでもJKは処罰されない。
このくらいの能力、作家なら持っていて当然だからだ。
JKに限らず、現実世界の技を駆使するプレイヤーは他にもいるのだろう。
それに本当のチートなら、もうひとりいるしな。
「アミューさんは戦わなくていいからな。GMが介入したらマズイから」
「ウン! 応援してるヨ!」
アミューさんはもともと強いが、GMという立場を利用すれば指先ひとつでモンスターを消し去る事ができる。
普通、ゲームの進行に著しく差し支える場合のみGMがモンスターを消したりするものだが、今はそういう時ではない。
そんな事をしたらアミューさんがクビになってしまう。
そもそも俺達と一緒に行動しているのが咎められないのが不思議だが――
きっとKADOKAWAも「面白ければOK」というスタンスなのだろう。
「アミューさん!」
前で戦っていたアルチュールが振り向く。
その反応に俺も気づき、振り向くと――アミューさんの背後から蝙蝠型のモンスターが襲いかかってきた!
GMでもお構いなしに攻撃してくるのかよ!
「わっ!」
びっくりしたアミューさんは、蝙蝠に向かって軽く指を突き出した。
まるでイタズラっ子を叱るように、軽く指が蝙蝠に触れる。
すると、いきなり蝙蝠が消滅した。
画面表示を見ると、九九九九ダメージを与えた、とある。
「……びっくりしたヨー」
「アミューさん、GMが干渉するのは……」
「だ、だいじょーぶだヨ! 多分! 今のはホラ、わざとじゃないカラ!」
冷や汗を垂らしながら弁明するアミューさんだが、本当に大丈夫なのだろうか……。
そんな事を考えつつ、俺達はどんどん前進していく。
どうもこのダンジョン、最初の空洞からこの狭い通路に入ってから、分岐がない。
一本道の迷宮のようだ。
こういう場合、戦闘がメインのコンテンツになるケースが多い。
実際、さっきから絶え間なく襲ってくるモンスター達。
この戦いこそが試練なのだろう。
そうと分かれば、俺も後ろから見ているだけというわけにはいかない。
「うっし、力を貸すぜ!」
「何エラソーな事言ってんのっ! 最初から手伝ってよ!」
JKに怒られたが、レベル一だったんだから仕方ないじゃないか。
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