第29話 探索の支度

 ダンジョンと聞いて真っ先に想像するのは、洞窟だ。

 岩肌を削り、蟻の巣のように地下深くまで続く天然の迷宮。

 もちろん他にもバリエーションはあるが、そういう洞窟を想像していた俺にとって、この明るいダンジョンは想定外だった。

 どこかに照明があるのか、視界がとてもクリアだ。

 壁にしても、綺麗に塗られている人口のブロック。

 ヌルハチがスキルで作った建物のように、このダンジョンもKADOKAWAの開発者が作ったのだとよく分かる。

 ついでに言うと、壁などに刻まれている紋章はKADOKAWAのマークだ。

 どんだけ主張してるんだよ。


「よーし、このまま突っ走れ!」


 俺はコンドルの背中に乗ったまま、JKに命令する。

 ダンジョンにはモンスターが配置されているのだが、世界最速のコンドルのスピードについていけないようだ。


「……いいのかな、乗り物使ってダンジョンなんて」

「いいんじゃねーの? 入れるんだし」


 ゲームによっては洞窟の前で降ろされたりするものだが、このダンジョンに限ってはOKらしい。そもそも入口も通路もセスナですら入れるほど広くとってあるのだから、これはもう乗り物での侵入を想定しているとしか思えない。

 配置されたモンスターには悪い事をしている気分だが。


「待てお前ら~!」

「止まれぇぇっ! この横取り野郎!」


 後ろから追いかけてくるヌルハチとアバラヤマ。

 彼らも早い乗り物に乗っているようだが、JKのコンドルほどではない。

 広い通路を抜けると、やがて空洞に出た。

 体育館くらいの広さの、何もない空間。モンスターも配置されておらず、オブジェクトはひとつもない。少しだけ壁が暗くなっており、そのせいで進行方向が掴めなくなる。


「いくつか道が分かれてるね」


 JKが呟く。


「分かるのか?」

「こんな事もあろうかと“マッパー”のスキルをパクッといたよ。“王国”の作家さんが持ってた」

「さっすがJK! 頼りになるな!」


 俺はJKを抱きしめて、頭を撫でてやる。

 よーしよし、よくやった。


「あ、ちょ……! せんせ……!」

「お?」

「……ううん、なんでもない。もっと褒めて」

「よしよし、わーしゃわしゃ」


 犬のように激しく頭を撫でても、JKは何も言わない。

 いつもなら激しいツッコミが来るのだが。

 やはりコンドルの上だと動きが取りづらいのだろうか。


「むー……マッピングなら、私もできるヨ!」

「お、おう……アミューさん、どうしたんだ?」

「あの道! あっちにお宝があるヨ!」

「おう、そうか、ありがとうなアミューさん!」

「…………」


 おかしい、褒めたのにアミューさんが不機嫌だ。

 何がいけなかったんだろう。


「エイッ!」


 アミューさんが俺に抱きついて、頭を差し出してくる。

 これは……撫でろという事か?


「よーしよし」

「エヘヘ!」


 あ、機嫌直った。

 頭を撫でられるのが好きなのか、アミューさんも。


「皆さん、イチャつくのも結構ですが、そろそろ次の対策を考えなければ」


 咳払いをして、アルチュールが窘める。


「次の対策?」

「はい。アミュー様のご指摘の通りであれば、次の道はあそこになりますが……」


 指さした先、広い空洞の右上方にその通路はある。

 遠くから見ても分かるが、めちゃくちゃ狭い。

 なるほど、ここまでは乗り物に乗って移動が許されるが、この先の狭い道を進むためには降りなければならないわけか。

 つまり、ここまでがロビー的な場所なんだな。


「じゃあ、コンドルはここまでだ。降りて進もう」

「オッケー!」


 通路の手前まで進み、コンドルを戻す。

 巨大な鳥はJKに顔をすり寄せると、光の粒になって消滅した。いつでもどこでも呼び出せるのだから、便利なものだ。

 俺もひとつくらい取得しておけば良かったかな。


「さて――ここからが本当のダンジョン探索の始まりだ」


 幸い、ヌルハチ達は大きく引き離したようだ。

 マップスキルを持っていなければ、さらに時間を稼げるだろう。

 もしも戦闘になれば、きっと勝てないだろう。奴らとは数もレベルも違いすぎる。

 それまでにお宝とやらを見つけ、中身を確かめてやる。


「と、その前に」


 俺はスキル一覧から目的のスキルを呼び出す。

 すると俺の周囲がぼんやりと光った。

 これは探知スキルだ。周囲に敵や宝物があれば反応する。

 それから灯りを出すスキルも同時に使う。


「せんせー、探索用のスキルなんて取得してたの?」

「バトル系のスキルはJKが覚えてるだろうから、俺は探索系に振る事にしたんだ」

「探索系のスキルも、あたし持ってるよ?」

「だろうけど、本当にヤバいもんを探知した時とか、いちいち伝えるヒマないだろ」


 そこまでJKを酷使するつもりはない。

 他にも生活に便利そうなスキルなど、複数人が持っていても支障がないスキルを選んで振ったつもりだ。


「ま、戦闘になったらよろしく頼むぜ、JK」

「いいけど、その代わりヤバくなったらせんせーを盾にするからね」


 恐ろしい予告を受けながら、俺達はダンジョンへと入り込むのだった。

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